それから数日後。
「ただいま、咲」
「え、直樹さん、ですか!?」
いつものように実家に顔を出した直樹を出迎えた咲は、彼を見て驚いた。
何故なら。
いつもは左右に流してワックスで固めてる髪は、何も付けていなくて自然だし。
服装だって、ワイシャツにスラックスではなく、カジュアルなチェックのシャツにデニムのジーンズ。
極めつけは、太いフレームの眼鏡だ。
パッと見、大学生に見えなくもない。
「どうしたんですか、その格好……」
すると直樹は、イタズラっぽく笑いながら言った。
「対策。練るって言っただろ?」
それはつまり、二人でデートする為の服装、という事で。
「ま、こういう格好してもなお、近場じゃデートはできないだろうがな」
直樹はそう言うが、咲はそれが凄く嬉しかった。
ちゃんと考えてくれてる。
私の為に……。
「その格好……凄く似合ってます」
「なら良かった」
咲は改めて直樹の格好をちゃんと見る。
いつもは社会人だし、教師だし、ちゃんとしてて。
10歳も年の差があるんだって、常にどこかで意識してるけど。
大学生みたいな格好だと、年が近くなったみたいだし、自分がもう少し大人っぽい格好をすれば、それだけで釣り合う気がしてくるから不思議だ。
「その眼鏡は、伊達眼鏡ですか?」
「ああ。ほら、眼鏡一つで印象は随分と変わるだろ?」
「はい。でも……直樹さん、眼鏡も似合っててカッコイイです」
眼鏡男子っていうのが流行ってたりもするけれど。
直樹さんみたいに普段の3割り増しぐらい格好良くなるなら、流行るのも頷けるかも……。
そう思いながら咲がポーッと見惚れいてると、直樹はニッと口の端を上げた。
「そうか。咲は眼鏡を掛けた俺がお気に召したんだな?」
言いながら直樹は咲にキスしようと顔を近付けるが。
慣れない眼鏡が邪魔で、思うようにキスできない。
「……意外に邪魔だな、眼鏡」
「仕方ないですよ。慣れてないんですから」
そう言ってクスクスと笑う咲に、直樹はムスッとしながら言う。
「ま、眼鏡は今後慣れていくとして……」
そうしてスッと咲の頬に手を添えて言う。
「これからはこうやって俺が変装するから。今までよりは出掛ける回数、増やそうな」
「っはい!」
満面の笑みを浮かべて嬉しそうに返事をする咲に、直樹も笑顔を浮かべた。
これからだって、きっと色々と困難や障害がある。
でも、それらの事柄から、ちゃんと咲を護っていきたい。
今回の事は一つの教訓だ。
いつ、どこで、誰に見られるか分かったモンじゃないから。
常日頃から、対策をしておくべきだという事。
変装はその為の手段だ。
いつもはしない髪型と服装。
芸能人じゃあるまいし、自分がそういう事をする事態が起きようとは、想像もしていなかったが。
シークレット・リレーション――二人の関係は秘密なのだから。
=Fin=