夕食後、咲を連れて自室に引き上げた直樹はベッドに腰掛ける。
「咲はココな」
 直樹が指し示したのは、自分の足の間のベッドで。
「そ、そこじゃなきゃ、ダメ、ですか……?」
「ダメ」
 恥ずかしそうに、半ば及び腰になりながら聞く咲に、直樹は笑顔で有無を言わさずそう言った。
 暫く迷っていたものの、咲が直樹に逆らえるハズもなく。
 渋々といった感じでそこに座る。
「し、失礼します……」
「ん」
 咲が座ると直樹は当然のごとく、彼女を後ろからギュッと抱き締める。
 本当は膝の上に座らせて、でも良かったのだが、咲の弱い耳に直接話し掛けるのならば、この方が体勢上都合がいいのだ。
 惜しむらくは咲の表情を楽しむ事が出来ないという事なので、直樹は目下真剣に、姿見の購入を考えていたりもする。

 それはさておき。
「な、咲」
「は、はい……」

 話し掛けるだけでふるふると震える様は大変可愛らしい。
 が、それは今度楽しむとして。

「咲は俺とずっと一緒にいたいか?」
「!……どうか、したんですか……?」
 不安そうにそう聞いてくる咲に、直樹は笑いながら言う。
「そんな不安そうな声出すな。俺は咲を手放すつもりなんてないんだから」
「直樹さん……っ」
 途端に咲は、嬉しそうな声を出す。
「勿論、咲が嫌だって言っても、もう離さないからな?」
「そ、そんな事……言わないです」
 甘く、囁くような声で、だが脅すように言ったのに、帰ってきたのはそんな答えで。
 直樹は嬉しくて、幸せな気持ちになる。

 良かった。この存在を護れて。
 きっと咲じゃないとダメなんだ、俺は。
 咲のいない人生なんて、もう考えられない……。

 そう思いながら、直樹は咲を抱き締めた腕に知らず力を込めていて。
 それに気付いた咲は、自分の体に回された直樹の腕にそっと触れながら聞く。
「急にそんな事言って……何かあったんですか?」
 直樹の身に起こった事を何も知らない咲は、当然想像する余地さえなくて。
 ただただ首を傾げるのみだ。
 だが、直樹がそれに答える事は、今後も無いだろう。
 だから咲の疑問に対して自然な、それでいて今回の事に決して無関係ではない言葉を選んだ。
「ん、いや……二人で外を堂々と歩けるようになるのは、まだまだ先だなって思ってさ」
「そう、ですね……」
 すると咲はシュンとしてしまった。
 咲だって年頃の女の子なのだ。
 好きな人と色んな所に出掛けたいという気持ちはあるに決まっている。
 そう考えた直樹は、ふと、ある方法を思い付いた。
「まぁ、対策はちゃんと練るから」
「対策、ですか……?」
「二人で出掛けられるようにする為の、な」
 そう言って直樹は咲の髪に口付けると、彼女の顔を自分の方に向けさせ、キスをした。