取り敢えずいつまでも廊下にいるのも変なので、直樹の部屋に移動して。

「……」
「……」
 沈黙。

 ううっ気まずい。
 こういう時って何、話せばいいか分かんないよ……。

 二人並んでベッドに腰掛けたはいいものの、先程からお互い何も言わない。

 ってゆーか。
 この状況が恥ずかしいっ!
 むしろ緊張するっ!

 な、直樹さんはどうなんだろうか……。

 そう思って咲が直樹の方を見ると、バッチリと目が合った。
「な……っ!?」
 その顔は優しく微笑んでいて。
 部屋に入ってから、咲は今までずっと俯いていたから気付かなかったのだが、直樹はずっと咲を見つめていた。
 目が合った事で余計に恥ずかしくなって、咲は慌てて俯く。

 ……ちょ、ちょっとあからさますぎた、かな?

 そう思うものの、咲の視線は先程から膝に置いた自分の手に注がれていた。

 どうしよう。
 顔上げれない。

 すると不意に、隣の空気が動いた気がした。
「咲」
「は、はいっ!」
 耳元で突然、囁くように名前を呼ばれ、思わず声が上擦る。

「何で目ぇ逸らすの?」

 言葉と共に、耳に熱い吐息が掛けられる。
「ん……っ!」
 途端に背中が粟立つ。
 顔が熱い。
 体中の力が抜ける感じがする。

 と、頭の上からクスクスと笑い声が降ってきた。
「な、何ですか……?」
「いや?咲は耳が弱いなぁって思って」
 そう言った直樹の笑みは、物凄く意地の悪いものだった。
「せ、先生!分かってるんだったら……」

「咲」

 抗議しようとした咲の言葉を、鋭く名前を呼ぶ事で直樹が遮る。
 心なしか怒っているような表情で。

「咲。……俺は誰?」

 哀愁を帯びた瞳で言いながら、直樹は咲の髪を梳き、そのまま抱き寄せる。
「な…直樹さん……です……」
 抱き寄せられる、なんて初めての咲はどうしたらいいのか分からず、結局恥ずかしさのあまり俯いてしまう。
「……どうしてそこで俯くかな」
「だ、だってぇ……」
 上目使いに直樹を見上げると、そこには少し困ったような顔。
「っ……咲。ちゃんとこっち見て」
 そうして頬に手を添えられ、上向かされる。
「な…おき…さ……」

 ゆっくりと直樹の顔が近付いてくる。
 咲は慌てて目を閉じて。
 その直後、唇に振ってきた柔らかな感触を感じた。
 そのまま啄むようなキスが何度も降りてきて。
 ――物凄く恥ずかしかったけれど。

「咲、好きだよ」

 そう、もう一度言ってくれた。

「……私、も……直樹さんが、好きです」

 咲が目を合わせてそう言うと、直樹は驚いたような顔をして。
 それから嬉しそうに微笑んだ。


 まさか、叶うとは思っていなかった。
 私と直樹さんは生徒と教師。
 だからコレは、秘密の恋。


 下宿先の二階の一番奥の部屋。
 そこは二人だけのシークレット・スペース。



=Fin=