≪始まりの日≫


 俺、木暮凍護と、近所に住む久兄こと宗方緋久が不良だというとんでもない誤解をされているのにはワケがある。
 元々切れ長で一重、しかも細目というのは、どうにも周りには冷たい、という印象を与えてしまっていて。
 同時に、生意気だ、と勝手な理屈でケンカを売られる事は度々あった。

 それは久兄も同じで。
 だからよく二人で一緒にいるようになった。

 まるで実の兄弟みたいに仲が良くて。
 だから“あの日”も、丁度二人で街を歩いていたんだ。


 二年前――。


 少し暗くなるのが早くなった夕暮れ時。
 駅前の大通りから一本外れた道を、凍護と緋久が通りかかった時だった。
「や、やだ!離してよっ!」
「いいじゃん、俺らと遊ぼうぜ〜」
「そうそう。ちょっとだけならいいじゃん」
 一人の女の子が、数人の男に囲まれていた。

 そういうのを黙って見過ごせない二人は、すぐに助けに入る。
「嫌がってるだろ。離してやれよ」
「女の子一人に数人で寄ってたかって……卑怯だろ」
「何だと?テメェらにはカンケーねーだろ」
「部外者は引っ込んでろよ、バーカ」

 当然の如く、それはケンカへと発展したのだが。
 何故か相手の人数はどんどん増え、気付けば二人で十人以上倒していた。

「クッソ、次から次へと仲間呼びやがって……凍護、平気か?」
「平気。久兄こそ……平気みたいだね」

 凍護と緋久は、月羽矢学園中等部のバスケ部のレギュラーで、名コンビプレイヤー。
 ディフェンス・オフェンス共に息の合ったプレイをし、チームの要となっている。
 加えて昔から何かと絡まれる事の多かった二人は、多少の事では負ける事はない。

 凍護はふと、女の子はどうしたかな、と思う。
 まぁ、こういう場面に遭遇すると、大抵の子は逃げてしまう。
 今回もそうだろうなと思っていたが、彼女はその場に呆然と立ち尽くしていた。
 きっと怖くて足が竦んで。それなのに目の前での乱闘騒ぎに、頭の中が真っ白になってしまったのだろう。
 凍護は彼女を怖がらせないよう、出来るだけ優しく声を掛ける。
「君、平気……?」
 すると彼女は一瞬ビクッと肩を震わせたが、正気を取り戻したのか頭を下げた。
「あの……っありがとうございました!」
 そう言われて凍護は、内心ホッとする。

 良かった。怖がらせなかったみたいだ。