と、丁度そこに、先程の騒ぎを聞きつけたのか、警官が駆けつけて来た。
「君達!そこで何をしているんだ!?」
その声に凍護と緋久は一瞬逃げようかとも思ったが、別に悪い事をした訳ではないので逃げるのはおかしいと思って止めた。
「不良同士のケンカか?まったく……君達、ちょっと署の方まで来なさい」
「「!」」
一言も話を聞かずにそう決め付けようとするその物言いに、一瞬、“暴力事件でバスケ部大会出場停止”という言葉が頭を過ぎる。
「待って下さい!この二人は悪くないんです!」
突然少女がそう言って、警官の前に進み出た。
「……君は?」
どうやらこの警官は彼女の存在に気が付いていなかったらしい。どう見ても場の雰囲気にそぐわない彼女を、訝しげに見る。
「私がその人達に絡まれていた所を、この二人が助けてくれたんです。でも最初は二、三人しかいなかったのに、どんどん人数が増えていって……」
するとその警官は目を瞠って言う。
「……何にせよ、乱闘騒ぎを起こしたのは事実だ。事情が事情だからお咎めはないように配慮するが、調書を取らなければならないから、来てもらえるね?」
「はい」
倒れて伸びている人数が多かった為、無線で応援を呼んで待っている間に、調書をすぐに済ませられるようにと、質問を受ける。
「じゃあ簡単に名前と学校と学年、あと、連絡先を教えてくれるかな」
「あ、はい。区立西中二年、花咲桃花です。連絡先は……」
少女の言葉に凍護は、同い年だったのかと内心思う。
「月羽矢学園中等部二年、木暮凍護です。家は……」
「同じく、月羽矢学園中等部三年、宗方緋久です。住所は……」
そうして少ししてから来たパトカーに乗って警察署に行く。
パトカーに乗るのは、コレで最初で最後だと思いたい。
警察で簡単に調書を取って、凍護と緋久が親が来るのを待っていると、別の部屋から桃花が出てきた。
彼女は二人に気付くと、傍に来て。
「あの、本当にありがとうございました」
そうして頭を下げてニコッと笑う桃花に、凍護は少しドキッとした。
明るい場所で改めて見ると、自分よりもかなり小さくて可愛くて。
大人しそうな印象なのに、言うべき事はキチンと言っていた。
ちょっと自分のタイプかも。名前、なんて言ってたかな……。
そんな事を思っていると、緋久が彼女に受け答えをする。
「いや、こっちこそ助かったよ。ありがとう。な、凍護」
「あ……うん。ありがとう」
そう言うと彼女は少しだけ照れたように頬を染めて。
「……あの」
「凍護!緋久君!」
何か言いかけた時に、凍護の親が迎えに来た。
「ちょっと待って!……えと、何?」
「あ、いえ……何でもないです」
凍護は親に声を掛けてから桃花に聞きなおすが、彼女はそう言って。
気にはなったが、桃花の方も迎えが来たので、結局聞けず終いだった。
翌日学校で早速呼び出しを受けたが処分はナシ。
ただ。
後日変な噂が流れている事を知った。
「は?ケンカ相手の不良を全員病院送り?……誰が?」
「お前と宗方先輩」
その情報を持ってきたのは同じ部活の奴で、普段はおちゃらけてるが信頼は出来る奴だ。
「あれだろ?この間の呼び出し。話に尾ヒレ付いて広まってるぞ」
誰だ、そんな事言った奴。気絶させはしたが、病院送りになんてしてないぞ!?
「……教えてくれてサンキュー。久兄にも伝えとく……」
幾分か脱力して、凍護はそう言った。
その後、肝心の“女の子を助けた”という部分は完全に消え、残った噂は。
『裏では他校生とケンカ三昧の優等生。ケンカ相手は必ず病院送り』
という物だった。
余談。
現在俺の彼女である花咲桃花こそ、その時に自分達が助けた子だという事が後から分かった。
彼女は、光栄な事に俺に一目惚れをして、ずっと俺を憶えていてくれて。
わざわざ月羽矢を受験したらしい。
そうして彼女は噂に振り回される事なく俺の所へ来てくれた。
そんな彼女を誰にも渡したくないから、ワザと自分達の仲を周りに見せ付けて大切にするのは、当たり前の事だろう?
=Fin=
バカップル誕生秘話(笑)