「音々子」
 苛立ちを押さえて、なるべく優しく呼ぶと、音々子が近付いてくる。
 すると音々子は、少し不安そうに聞いてきた。
「……怜人、は、どう思う……?」
「馬子にも衣装」
「……は?」
 唐突に言われたその言葉の意味を、音々子は一瞬理解できなかった。
 そうして次には不貞腐れる。
「どうせ似合わないですよーだ……」

 お世辞でも、可愛いよ、とか言ってくれればいいのに。
 ……言って欲しかったのに。

 音々子が軽く落ち込んでいると、満が言う。
「音々子ちゃん、逆だよ、逆。見違える程綺麗になったって意味だから」
「……そうなんですか?」
 半信半疑で聞き返すと、満は頷く。

 つまり、口には出さないけど、怜人はこの格好を可愛い、とか内心思ってくれてるってコトでいいの?
 だったら嬉しいっ!

 音々子がそんな風に思っていると、怜人が店員を呼ぶ。
「見繕ったの全部貰う。着替えた服はそのままで、後は送ってくれ」
「畏まりました」

 嬉しさのあまり、そのやり取りを思わず流して見てしまっていた音々子は、ハッと気付いて慌てる。
「ちょ、ちょっと怜人!全部って……」
「音々子」
 音々子の言葉を遮って、強い口調で目を見据えて怜人は言い、その様子に渋々承諾する。
「……わかったよ……」
「ああ、それと」
 何かに気付いたように付け足す怜人に、音々子は顔を上げる。
「その服でその靴はないだろう」
「あ」
 履き古したスニーカーを履いていた音々子は、確かに変だと思う。
「コレも貰うぞ」
 店員にそう断って差し出されたのは、可愛らしいミュール。
 音々子はそれを見て、ふとある事を思った。
「シンデレラみたい……」

 思えば似たような境遇だ。
 両親が死んで、家事手伝いをやらされて、虐められて。
 するとコレは、魔法使いの魔法だろうか?

「音々子がシンデレラなら、さしずめ俺は王子様か?」
「んーん。魔法使い」
 言ってから音々子はしまったと思う。
「ねーねーこーっ?」
「わぁ、ごめん怜人!」
 そのやり取りを、二人はどこか楽しむ。
 と、そこで満が口を割って入ってきた。
「何か盛り上がってるね〜」
「満……別に」
「うわ、冷た。……まぁいいや。見てて思ったんだけどさ。音々子ちゃんて、髪ウェーブかけるか、こう……アップした方がよくない?」
 言いながら満は音々子の髪を持ち上げる。
 それを見て、怜人はカッと頭に血が上るのを感じた。
「――っ!」

 やめろ。
 それは俺のだ。
 触るな。