「……は?」
 音々子の言葉に、怜人は一瞬固まる。

 何だソレ?
 一体何をどう勘違いすれば、そんな解釈に行き着くんだ?

「音々子、何でそう思ったのか分かるように説明しろ」
「……だって、元々……俺はペットとして……」
「説明になってない」
 歯切れ悪く、小声で話す音々子に、少し苛ついてぴしゃりと言う。
「俺はちゃんと好きだと言ったが?」
「だって、それは……ペットとしての……」
「違う。それはあの時、お前もキチンと理解したと思ったんだがな」

 告白をした時、顔を真っ赤にしていた彼女。
 家に帰ってから、無理に返事をしようとしてくれていて。

「焦らなくていいって言ったからか?」
 だが音々子は首を横に振る。
「俺が何も手を出さないからか?」
 だが音々子は、またしても首を横に振る。
「じゃあ何が原因だ?」
 怜人は、咎めるような視線を送って腕を組む。

 理由が全く思い当たらない。
 そもそも、手を出さなかったのだって、音々子が避けるような態度を取っていたからで……。

「……だって……キス、されると思ったのに……しなかったから……」
「はぁ?」

 我ながら、何とも間の抜けた声を出してしまったと思う。

「……つまり何か?お前はキスして欲しかったのか?」
「ち、違……!」
「違わないだろ。期待外れで勘違いにまで至ったって事は」
「う……」
 言葉に詰まった音々子に、怜人は呆れ顔で聞く。
「で、いつ?」
「……次の日の朝……」
「あー?……あぁ、頭撫でた時か。ったく……じゃあゴメンて謝ったのも?」
「うん……好きになっちゃ、ダメだって思ったから……」
 そう言って音々子は泣き出してしまった。
「泣くな、笑え。お前は俺を好きになっていいんだから」
「……うんっ!」
 そう元気よく返事をした音々子は嬉しそうに、心の底からの笑顔を見せて。
 そんな音々子に、怜人はもう一度深く口付ける。

 ……どれだけそうしていただろうか?長いキスを終え、怜人が名残惜しそうに唇を離せば、音々子の頬は上気して赤く染まり、瞳はトロンとしていて。
「……これ以上は歯止めが利かなくなるんだが、どうする?」
 怜人は囁くようにそう聞く。
「……これ、以上……?」
 その言葉に音々子は首を傾げるが、すぐにその意味に気付くと顔を真っ赤にさせて言う。
「あ、あの、できれば心の準備をさせて下サイ」
「……残念」
 そう言った怜人には、ドキッとする程の色香があって。
 音々子は心臓を早鐘のようにドキドキさせる。
「……気分切り替える為に、もう一度シャワー浴びてくるから。先に寝てろ」
「……うん……ごめん、ね?」
 申し訳なさそうにそう言う音々子に、怜人は優しく笑いかける。
「……バーカ。俺の事は気にするな。それよりお子様はもう寝ろ」
 からかうようにそう言うと、音々子は途端にムッとした表情になる。
「……どーせお子様ですよーだ」

 あ、拗ねた。
 それすらも可愛いと思える。

「……覚悟しとけよ音々子。俺もそんなには待てないからな?」
 ニヤリと口の端を上げながらそう言う怜人に、音々子は再び真っ赤になって。
「〜っもう寝るっ!」
 そうして慌てて寝室へと向かった。

 ドアが閉まるのを見届けて、怜人はフッと微笑む。

 あんなに顔を真っ赤にさせて、音々子は本当に可愛いなと思う。
 誤解も解けたし、もうあの沈んだ表情を見なくてすむ。
 音々子の心はもう完全に俺のモノだ。慌てる必要はない。
 大切に、大切にしてやろう。
 ちゃんと待つつもりだ。……それまで理性が保てれば、の話だが。


 ゆっくりおいで?俺の可愛い可愛い子猫ちゃん。