目が覚めて音々子は、不思議と幸せな気分に満たされていた。
内容は覚えていないが、凄くいい夢を見た気がする。
とても安心できる、例えるならそう、陽だまりのような夢。
今もまだ、その陽だまりの中にいるような気さえしてくるから不思議だ。
だが。
次第に意識がハッキリしてくるにつれ、音々子は急に恥ずかしくなる。
怜人の顔が近い。
整った寝顔。男の人なのにキレーだと思う。
それに、強く抱き締められている。
まるでそれが、自分を必要としてくれている事の表れのような気がして。
何だか恥ずかしいような、くすぐったいような、嬉しい気分になる。
「……怜…人……?」
名前を呼んでみると、怜人は僅かに身動ぎする。
「ぅ…ん……ねね…こ……俺の……」
それを聞いて、音々子は真っ赤になって思わず叫んだ。
「誰がテメェのだバカーーーッ!!」
「!?」
突然耳元で大声を上げられ、怜人は驚いて目を覚ます。
「……音々子!おまっ…何つー声出してやがる!?」
「怜人が寝言で変な事ゆーから悪いっ!」
……は?
何だソレ。一体どういう理屈なんだ……!?
言われた怜人はワケが分からず唖然とする。
「……で?俺が寝言で何言ってたって?」
気を取り直して怜人は、ん?と訊ねるように音々子の顔を覗き込む。
すると音々子は更に顔を真っ赤にさせた。
「い、言わない!」
「何で?」
だが音々子は怜人の問いには答えず、怪訝そうな表情を浮かべる。
「……ニヤニヤして怜人、変」
「え」
ヤバイ。
思わず顔に出てしまっていたらしい。
真っ赤な顔の音々子があまりにも可愛かったから、なんて、正直に言ったらまた怒るだろうか?
「……音々子」
「な、何だよ」
少し警戒しながら音々子は口を開く。
そんなに変だったか、俺?
「……もう少し寝てろ」
怜人はそう言って起き上がると、音々子の頭を撫でてベッドを出る。
「え」
突然の怜人の言動に、音々子は呆気に取られる。
だがすぐに起き上がると、彼の服の端を掴み、不安そうに言う。
「怜人、ドコ行くの!?」
「……会社、だけど」
「そ、そっか……そう、だよな」
慌てて手をパッと離し、バツが悪そうに音々子は俯く。
「……何?そんなに俺に傍にいて欲しい?」
あくまで平静を装って、顔を近付け覗き込む。
本当はメチャクチャ心臓に来る。
音々子も実は俺と同じ気持ちなんじゃないかって思って、ドキドキする。
「……は」
「何?」
だが返ってきた答えは。
「早く会社行けバカーーーーーッ!!」
……大音響の罵声だった。
「……はいはい」
素直にそれに従い、怜人は寝室を後にした。
怜人が出て行ったドアを見つめて、音々子は呟く。
「バカ怜人……」
怜人の枕をギュッと抱き締めて。
怜人が身支度を整えて寝室を覗くと、音々子は寝ていた。
その腕には、怜人の枕を抱いたまま。
「……可愛い奴……」
寝ている音々子を起こさないように、彼女の額に軽くキスをする。
「行ってくるな、音々子」
そう言って怜人は、静かにそっと部屋を出た。