ある日の昼休み、朱夏は目の前でお弁当を広げている智と璃琉羽に向かってボソッと呟いた。
「絶対背が低い方がお得なんだよね……」
「「え?」」
 その呟きに、二人が同時に反応する。

 ちなみに彼氏持ちのこの二人、朱夏よりも十センチは背が低い。
 見た目も可愛いし、結構告られ率は高かったりする。

「でも背、高い方が絶対いいって!朱夏ちゃんカッコイイし!」

 カッコ良さは求めてないのよ、私はっ!
 というか世の男共は。

「そうそう。背が低いと色々不便だしねー」

 そんなの男がカバーするって。
 てか、届かない所の物を一生懸命背伸びして取ろうとして「届かない〜っ」とかってやってる姿が可愛かったりするんだから。
 男が弱い上目使いも効果抜群よ?

 心の中であれこれ突っ込みながら、朱夏は反論する。
「やっぱり絶対背は低い方がいいって。だって、ヒールの高い靴とかブーツとか履いても嫌がられないじゃない」
 そう言う朱夏が今持っているのは、殆どがスポーツシューズやローヒールの物ばかりだ。
 しかも。
 朱夏が思うに、身長と足の大きさは比例する。
 ……あくまでも朱夏の思い込みだが。

 そんな訳で、朱夏はいつもサイズの大きい靴を探すのに苦労する。
 そうなると可愛い靴なんて殆どなくて。
 ……服のコーディネイトなんて毎回苦労するんだから!
 や、別にデートする相手もいないからいいんだけど。

「あーあ。背がもう少し低ければ良かったのになー」
「それ、毎日牛乳飲んでる人の言うセリフじゃないと思うよ?」
 苦笑しながらそう言うのは智だ。

 そう。朱夏は牛乳が大好きで、食後の牛乳は毎回欠かせない。
 現に今も、机の上にはパックの牛乳が置いてある。
「えーだってぇ……好きなんだからしょうがないじゃない」
 そう言って朱夏は口を尖らせる。

 だが、朱夏には最近困っている事があった。
 その困っている事とは。

「絹川。お前は牛乳飲むなっていつも言ってるだろ」
「あっ!ちょっと、返しなさいよ、私の牛乳!」
 出た。牛乳ドロボー。
「お前はこっち」
 取り上げられた牛乳の代わりに机に置かれたのは、紙パックの紅茶。
「〜〜っ!白山!何でいつもいつも私の牛乳持ってくワケ!?」
「……これ以上デカくなってどうする気だよ、お前」
「う」
 ……痛い所を。

 朱夏の困っている事とはまさにコレ。この男の存在。
 白山愁(しらやま しゅう)。
 ただのクラスメイトの男子。
 ……そう、ただのクラスメイトのハズなのよっ!
 なのにコイツは!毎回毎回私の牛乳を奪って!
 ……代わりに何かしらの飲み物を置いていく。

「何なのよ、一体っ!」
「まぁまぁ朱夏ちゃん」
「落ち着いて。ね?」
 白山が去った後、憤慨する朱夏を璃琉羽と智が宥めに掛かる。
「それなら一番最初に飲んじゃうとか」
「食後の楽しみなのっ」
「じゃあそれまで隠しておくのは?」
「こないだそれやって、飲む直前に奪われたじゃない」

 むぅ。
 どうしたら奴から牛乳を守れるのだろうか?