次の日から、白山は朱夏の所へ来なくなった。
 つまりそれは食後に牛乳が飲めるという事で。
「……」
 だが、朱夏は何故だかおいしいとは思えなかった。
「どうしたの、朱夏ちゃん。嬉しくないの?牛乳取られなくて」
「う、嬉しいに決まってるじゃない!何言ってるのよ」
「嘘。だって朱夏、浮かない顔してる」
「〜〜っ」

 そんなに顔に出てるんだろうか?
 璃琉羽と智に言い当てられ、朱夏は少し悔しいような気もした。

「やっぱり白山君が来ないから?」
 確かめるように言われて、不本意ではあったが朱夏は頷く。
「だって変じゃない。この間まで毎日のように来てたのに、急に来なくなったら……調子、狂う……」

 何だろう、変な感じ。
 何だか胸がモヤモヤする。
 苦しい。
 ……あ、やばい。
 何か泣きたくなってきた。

 ――涙なんて、ガラじゃないのに――。

「朱夏ちゃん……好きなんでしょ?白山君の事」
「……え?」
 思いも寄らなかった事を言われて、朱夏の思考は一時停止した。
「私が、白山を、好き……?」
 そう呟いて、自分の中でその言葉を反芻してみる。

 好き。
 白山の事を。
 私が……?

「よく、わかんない……」
「……朱夏。最近、誰の事を一番考えてる?」
「それは……」
「今、一番欲しいのは、誰の言葉?」
 そう聞かれて朱夏は、弾かれたように俯いていた顔を上げる。

 そんなの。
 そんなの、決まってる。

 ――ああ、そうか。
 やっとわかった。
 私、アイツの事好きなんだ。
 だからモヤモヤするんだ。
 だから苦しいんだ。

「……はっ……鈍すぎ……」
 朱夏はようやく気付いた自分の気持ちに、短く自嘲的に笑う。


 今まで、朱夏にとって男子というのは、異性ではなく仲間だった。
 小さい頃から遊び相手は兄の友達の近所の男の子。
 女の子と遊ぶよりもそっちの方が楽しかった事もある。
 だからこそ今の男勝りの性格になってしまったのだし、高校で智と璃琉羽という親友が出来るまで、女の子同士で話をした事も殆どない。


 だからといってこの自分の鈍さは何だろう?
 モヤモヤの一部は晴れたけど、今更気付くなんて遅過ぎる。
「気付いたと同時に失恋決定、か。……あーダメだね、私。やっぱり恋愛なんて向いてないや」

 だって、彼は。
 白山は、もう自分にちょっかいを出してこない。
 突き放したのは他でもない自分自身。
 自分の気持ちに気付く前に、自分から相手を遠ざけた。

「バカだよね。どんな理由でも、構って貰えなくなるよりはマシなのにね」

 ちょっかいを出してきたのは、ただの意地悪とか、女なのに背が高いのが気に喰わないとか、そうでなければ何気ない過去の自分の発言で恨みを買ったとか、そんな所だろう。
 実際に過去、何度かそういう事もあったし。
 例え本当に理由がそうであっても、何もない今の状況の方が確実に悪い。

 本格的に嫌われちゃった、と力無く笑う朱夏に、智と璃琉羽は声を掛ける事が出来ず、心配そうに見ている事しか出来なかった。