だが時音は、すぐにその意味を知る事となった。


 教室に行くと、クラスメートの一人が、遠慮がちに声を掛けてきた。
「ねぇ上条さん……その、久我君と付き合ってるって……本当?」
「……はい?」

 アナタ今何言イマシタ?

 そう考えていると、その質問を皮切りに、一斉に質問を浴びせられる。
「あー、それ気になってたんだぁ。今朝一緒に登校して来たしっ」
「いや、あれは……」
 偶然だって。
 だが、その二の句は継がせてもらえなかった。
「ねぇ、どっちから告白したの?」
「いつの間に付き合ってたのよ」
「やっぱり普段も優しかったりする?」
 などと、何も答えられないまま、皆どんどん憶測で話を進めていく。

 いや、ちょっとは聞こうよ。人の話。

 そうして始業チャイムが鳴ると、人だかりは蜘蛛の子を散らしたかのように、あっという間にいなくなる。

「もう……何だっていうのよ……」

 確かに奴の言っていた通りかもしれない。
 もし気の弱い子だったら、あんな質問攻めには耐えられないだろう。
 しかし。
 恐ろしく人気あるなぁ。

 時音は今までそう対して気にも留めていなかったので驚いた。
 そうしてチラッと久我の方を見てみる。
 すると久我はずっと時音を見ていたのか、バッチリと目が合い、その途端微笑んだ。
 それはまるで“ほら、俺の言った通りだろ?”と言っているようで。
 時音には悪魔の微笑みにしか見えなかった。


 時音は久我の人気を侮っていた。

 月羽矢学園には、現在有名人が五人いる。

 まずは高等部生徒会執行部役員、生徒会長の月羽矢琴音(つきはや ことね)。
 彼女は月羽矢学園理事長息女でもあり、学園内では独特の雰囲気と、その容姿、頭脳から、男女問わずの人気ナンバー1。

 同じく副会長職の弦矢弓近(つるや ゆみちか)。
 彼は琴音の幼馴染でもあり、最も会長の近くにいる人物として有名だった。

 それと、同じクラスの宗方緋久と、一年生の木暮凍護。
 この二人はバスケ部内では名コンビプレイヤーとして有名なのだが、それ以上に有名なのは、やはり『他校の不良と喧嘩をして、相手を全員病院送り。しかも二人で十人以上を相手にして』という話だろうか。
 実際本人を目の当たりにすると「え?本当に?」という印象を受ける。(但し、目つきが悪い為、第一印象だけだと噂も納得いく……って自分の目つきの悪さも人の事言えないけど)

 そうして最後の一人は、他でもない久我道行。
 成績優秀、品行方正。時期生徒会長と噂され、ルックスもなかなか。
 当然彼自身が言っていたように、女子からの人気は高いと思う。

 ……だからって。
 だからって!
 まさか授業後の放課毎に廊下に人だかりが出来るとは思わなかったわよ!?

 ううっ。視線が集中して、まるで針のむしろに座らされてる気分だわ。