朝からずっとそんな感じだった為、時音は昼休みになると、お弁当を持って一目散に屋上へと避難した。
 屋上は人の出入りが少なく、時音はいつもここで親友の甲斐遊菜と一緒にお弁当を食べる事にしている。

 屋上で一息ついていると、暫くして遊菜がやってきた。
「何か凄いね……皆、時音の事探してたよ?」
「やっぱり?……もう勘弁して欲しい……」
 すると、少し言いにくそうに遊菜は口を開く。
「ねぇ時音……本当なの?久我君と、その……付き合ってるって。聞いた話じゃ、久我君の私設ファンクラブとかあるらしいよ?」
「……マジ……?」

 ファンクラブなんてあるの、月羽矢先輩だけだと思ってた。
 そんなに人気あるの?
 ……騙されてる。皆、騙されてるわ。
 あの微笑みの下には悪魔の顔があるのよーっ!
 ……って声を大にして叫びたい。

「……遊菜。今から私がする話、信じてくれる?」
 そう切り出して、時音は昨日からの出来事を話す。


 そうして話し終えると、遊菜は少し考えた後、口を開く。
「……にわかには信じ難いんだけど……」
「本当なんだってば〜っ」
 と、その時頭上から声が降ってきた。

「こんな所にいたんだ。探したよ、時音」

 あくまでも穏やかなその声音。
「甲斐さん、こんにちは。いつもココで時音と食べてるのかな?」
 それは、久我道行に他ならなかった。
「そ、そんな優等生面しても、遊菜にはもう話したんだから!」
 そう言う時音に、久我は余裕の表情で言う。
「へぇ?……それで?甲斐さんは信じたの?」
 にっこりと久我は遊菜に微笑んで問う。
「えっと……ちょっと信じられない、かな」
 遊菜の言葉に、時音は「そんなー」と声を上げ、逆に久我は、当然だとでもいうような顔をする。
 だが。
「でも、時音は嘘を吐くような子じゃないし、ましてそれで相手を貶めるような事をする子じゃないから。私は時音を信じる」
「……遊菜ぁ……!」
 信じてくれた。
 それが凄く嬉しくて、胸にジーンと来る。
「ありがとう、遊菜!」
 そうして時音は思いっきり遊菜に抱き付く。
「時音ったらもー」
 笑いながら二人でじゃれていると、フッと微笑って久我が口を開いた。

「いいダチなんじゃねぇの?人を見る目はあるみたいだな、時音」

「「……」」
 いきなり口調がガラッと変わった事に、二人は複雑な表情をする。
「ア?何だよその顔。本性バレてんのに今更隠す必要ねーだろ」
 確かに。
 久我の言い分も、分からないでもない。
「甲斐だって時音の方を信じるんだろ?なら別に同じじゃん」
 分からないでもないのだが。
「アンタ変わりすぎ……」
「うんうん。しかも急に変わるからビックリした」
「ねー?私も最初信じられなかったもん」
 時音と遊菜がそう言うのに対し、久我は前髪を掻き上げながら言う。
「うっせーな。別にいいだろ?元々こっちが地だ。優等生は何かと便利だからしてるだけで」

 コイツは……またいけしゃあしゃあとそういう事を……っ!

「久我君、何かそっちの方が自然だね」
 そう改めて納得したかのように遊菜が言う。
「ったりめーだ。こっちが地だって言ったろ?」
「……やっぱ別人」
 その時音の呟きに、久我は目を細めて言う。
「ほぉ?時音、彼氏にそんな事言うなんて、いい度胸だな」
「付き合ってないし!」
 だが、そんな叫びを久我は見事にスルーする。
「あ、昼飯今度から俺も参加ね」
「話を変えるなー!」
「いいよ」
「ってちょっと遊菜!?何OKしてんの!?」
 慌てる時音に対し、遊菜は当たり前のように言う。
「え、だって断っても乱入してきそうだし」
「モチ」
「アンタは頷くな」
「それに、漫才見てるみたいで楽しいし」
「……見世物扱い?」
「確かに時音、お前色々ツッコミし過ぎ」
 くくっと笑う久我に、時音は不機嫌そうに答える。
「……おもしろくないしっ」
「ほらまた」
 指摘されて時音はぶぅとむくれる。

 普通に言ってるだけなのに、私ってツッコミし過ぎ?

「という訳で、よろしく」
 ……結局何故か、一緒に食べる事になってるし。