学校が冬休みに入ってすぐ、寿子は、せめてクリスマスは一緒にいたくて彼氏にメールをする。

 でないと、自分がどうにかなりそうで不安だった。
 “自分”という存在を、彼氏によって繋ぎ止めて欲しかった、というのが本音かもしれないが。

 だが返ってきたのは。
『多分無理。忘年会やら何やらで忙しいから。ゴメンな』
 という返事だった。
「入社一年目じゃ、仕方ないよね……」
 それでも逢えないのはやっぱり寂しくて。
 どうせ明日から休みなんだし、と、気晴らしに一人で飲みに行く事にした。


 運命って残酷だ。
 何もこんな時に、傷付くような出来事が起こらなくてもいいのに。


 寿子が行ったのは、彼氏とよく飲みに行くバー。
 落ち着いた雰囲気のお店で、マスターのオリジナルカクテルがお気に入りだった。

 なのに。
 そこで見つけてしまった。
 奥のテーブルで、別の女性と二人で飲んでいる彼氏の姿を。


 最初は仕事の接待か何かだと思った。
 だけど彼は、その女性と親しそうに顔を近付け、何やら囁き合うように話している。
 その様子は、まるで昔の私と彼そのもの。

 暫く寿子が呆然と見ていると、彼の方から女性へとキスをした。
「っ!」
 そうして顔を上げた彼が、寿子に気付く。
 一瞬驚いた表情をし、だがすぐに冷たい目を向ける。
 そうして、立ち尽くしている寿子の傍まで近付いてきた。
「哲、雄……」

「見てたんだろ?なら分かるよな、ガキじゃねぇんだし。すれ違いばっかで会えないなら、丁度いい相手見つけるのが普通だろ?」

 悪びれた様子もなく、逆に開き直ってしれっとそう言う哲雄。
 私は一体、今まで彼の何を見てきたんだろう。
 今ここで会わなければ、彼は今まで通り何食わぬ顔をして恋人と偽り、二股を掛け続けていたのだろうか?

「……じゃあ、お互いの為にもう連絡はしないね。元気で」

 寿子は笑顔でそう言って、店を出た。


 自分がもしああいった場面に出くわしたら、もっとみっともなく泣き喚くか、激しく相手を罵って、平手の一発でもかますんだろうと思っていた。

 だが実際はどうだろう。私は笑顔で彼に別れを告げていた。
 もしかすると心のどこかで、もうダメなんじゃないかと諦めていたのかもしれない。
 心に開いた空洞は、思っていたよりも小さなもので。
 意外に、こんなものかと思った。

「……私、本当に彼の事、好きだったのかな……」

 そうは思っても、自分の心が分からない。
 確かに好きだったハズなのに。
 今はそう言える自信がない。