彼氏との今までの事を振り返りながら、寿子が帰り道をトボトボと歩いていると、近所の公園の入り口で抱き合っているカップルが目に付いた。
「……人が振られたって時に……」
 そう呟いて通り過ぎようとした時。
 男の方が顔を上げ、その横顔がハッキリと見て取れた。
「え……?」

 信じられなかった。
 いや、信じたくなかった。

 その横顔は、紛れもなく達哉だったのだから。

 寿子はその場から逃げるように急いで立ち去る。
 幸い、気付かれはしなかったらしい。

 部屋に帰った寿子は、電気も付けずにそのままベッドに身を投げた。
「何よ……彼女、いるんじゃない……」

 ショックだった。
 先程彼と別れた事よりも。

「う……っく……バカぁ……」
 そのまま枕に顔を埋め、声を押し殺して泣く。

 いつの間にか、彼氏よりも達哉の方に気持ちが傾いていた。
 それにハッキリと気付いた時には、失恋だなんて。

 そもそも、許されない事だと自分に言い聞かせて。
 だからこれまで避けてきた。
 そのツケが回ってきたのだ。
 いつまで経っても自分の方を向かない私に愛想を付かして、彼女を作ったって不思議じゃない。
 むしろこれは、喜ぶべき事だ。
 なのに。
 心に大きく開いた穴は、彼氏と別れた比じゃなくて。
 自分が立場にこだわって意地を張っていなければ、本当は今頃付き合っていたのかもしれないと考えると、余計にその穴は大きく広がっていくようで。
 苦しくて、辛くて、心が張り裂けて壊れてしまいそうな程で。
 どこまでも闇に堕ちていくような錯覚さえ起こる。

 こういう時大人って損だ。
 声を大にして思いっ切り泣き叫べれば、少しはスッキリするのに。
 泣く事すら我慢しようとしてしまう。


 そうしてどのくらい経ったのだろうか。
 いつの間にか寿子は寝てしまっていたようで、目を覚まして時計を見ると、もう夜中の十二時を回っていた。
「……お腹空いた」
 そう思って思い返してみると、夜は何も食べていない事に気付いた。
 少し飲んで、コンビニで何か買って帰ろうと思っていたのに。
 ……あんな事があったから。

 冷蔵庫に何かないかと開けて、暫く考える。
「……甘いモノ食べたい……」
 一瞬、“夜中に食べたら太る”という言葉が頭を過ぎるが、すぐに、まぁ今日くらいいいか、と思う。

 生憎家には買い置きがなかったし、どうせなら生クリーム系が食べたいと思って、簡単に着替えてから、お財布を持って近所のコンビニに行こうとドアを開けようとした時。
「……ん?」
 ドアの前に何か重い物でも置かれたのか、ドン、と音がして開かなかった。

 誰かのイタズラだろうか?
 そうだとしたら、かなりタチが悪い――。

「え……」
 だが、力を入れて押し開けるよりも前に、ドアが勝手に開いた。