暫くして部屋に戻ってきた達哉は、ジーンズだけ穿いて上半身裸のまま、寿子が出しておいたバスタオルで頭をガシガシと拭いていた。
「何て格好してるの!?」
限りなく悲鳴に近い大声を出す寿子に、達哉は口の端をニッと上げて言う。
「あ、何?俺の事意識し」
「いいから早く服を着なさい!体を温める為にシャワーを浴びたのに、そんな格好でうろついてたら風邪ひくでしょ!?」
だが寿子は達哉の言葉を遮ってピシャリとそう言った。
「何だそっちかよ……」
小さくチッと舌打ちしながら、達哉は服を着た。
「……あのさぁ。ああいう場面では頬でも赤らめて、恥ずかしそうにするモンじゃないの?」
口を尖らせてそう文句を言う達哉に、寿子は体が温まるようにと紅茶を出しながら答える。
「お生憎様。実家の弟も同じような格好でよくうろついてたから。……それよりも、これ以上心配させないで」
「……俺の事心配してくれるの?寿子センセ、可愛い……」
切なそうな、哀しげな表情で見上げる寿子を、達哉は思わず抱き締める。
だが。
「寿子センセ?」
寿子はそれを拒むかのように、達哉の肩を押し返した。
「……私、可愛くなんかない」
拒絶を含んだ声音。
俯いていて表情は分からないが、多分辛そうな表情なのだろうと、簡単に察する事が出来る。
「ごめん……可愛いって言われるの、嫌だった……?」
達哉はもう一度寿子を抱き締める。
「……だって、自分で自分を可愛いって思えないもの。意地っ張りで素直じゃないし、見た目だってそんなに……可愛い子なら貴方の周りに沢山いるでしょう?その子達に比べたら、私なんてもうオバサンだもん……」
……オバサンって。
寿子の言葉に内心呆れながら、達哉は口を開く。
「寿子センセって新卒で、今年23だよね?俺と7つしか変わんないじゃん」
というか。
その歳で自分がオバサンだ、なんて言ってたら、絶対二十代後半とか三十代の人から苦情来ると思う。
まぁ確かに?同級生の中には、20過ぎたらオバサンだ、なんてバカな事言ってる奴もいるけど。
だが達哉の言い分に対して、寿子は。
「7歳も離れてれば、十分オバサンよ」
と、不貞腐れたように言う。
……何か、物凄くネガティブになってねーか?
こういう性格だったとは……。
「寿子」
「っ!」
達哉が名前で呼ぶと、寿子はビクッと肩を震わせる。
「寿子……俺は年の差なんて気にしないよ。寿子は十分可愛い。俺からすれば意地っ張りで素直じゃないトコも、全部寿子だから可愛いって思えるんだ」
達哉は耳元で囁くように言葉を紡いで、髪を撫でながら続ける。
「なぁ……寿子は年下の男は嫌い?立場とかそういうの全部抜きにして、それでも俺にチャンスはないの?」
ある意味賭けだった。
もしこれでダメなら、望みは薄い。
「……嫌いよ、貴方なんか」
答えはノーだった。