静かな山間の道を一台の馬車が通る。それを木の上から眺める男がいた。
「護衛の人数は…ひい…ふう…四、五人ってトコか。んで、馬車の中に一人か二人だな。……よし!」
その男は気合いを入れると、ヒラリと馬車の前に着地する。
馬車の護衛達は、突然木の上から現れた男に対して剣を抜いた。
「貴様、何者だ!?」
しかし、その状況に慌てる事無く男は口を開く。
「その馬車に乗ってるのは、ザプロス=ビネーゼで間違いないな?」
主人の名を言われた事で、護衛達の間に緊張が走る。
「悪いがその首、取らせてもらう」
男は背中に背負っていた大剣をスラリと抜いて構える。柄の色は赤。
その眼は鋭く、まるで獲物を狩る獣の様だった。
護衛の一人が声を上げる。
「!き、貴様もしや、ロッド=ベルゼーム……!?」
その名に、護衛達の間で動揺が生まれた。
「間違いない。その風貌、その眼差し、何より赤い柄を持つその大剣!話に聞く通りのロッド=ベルゼームだ!」
「正解」
次の瞬間、風が通り抜けた。
否、風ではない。護衛達の間を通り抜けたのはロッドだった。
そして後に立っていられた者は誰もいない。
「さーてと……。出て来いザプロス!外の護衛は全員おネンネしたぜぇ?」
するとロッドの予想通り、出て来たのはザプロス一人ではなかった。
旅用のマントを纏った剣士風の者。フードを深く被っており顔は判らない。
相手はゆっくりと腰を落として前屈みの姿勢を取って構えた。
次の瞬間。
相手は踏み切って一気にロッドの懐に入り込んだ。
「い……っ゙!?」
咄嗟に剣を引き上げ何とか一撃を躱したロッドは、後ろに飛び距離を取る。
「……っぶねー!さっきの雑魚共とはエラい違いじゃん!?」
強い。
出来れば戦いたくない。
それならば。
「……なぁ、アンタ雇われ剣士だろ?そんな悪党の護衛するより、俺と組んでそいつの首に懸かってる賞金山分けしないか?」
雇われ剣士は金で動く。この提案は効果的なハズだ。
だが。
「……悪党なのか?」
相手が食い付いて来たのはそっちだった。
「あぁ……っつーか知らなかったのか?そいつ二十万ガルドの懸賞金懸けられてる賞金首だぜ?」
それを聞いて、その剣士は剣を収め雇主を振り返る。
「……悪いが護衛は此処迄だ。金はいらん。悪党の金など惜しくもない」
そう言って剣士はロッドに向き直る。
「そういう事だから後は好きにしろ」
そうしてロッドの横を通り過ぎる、その時。
一瞬、風が剣士のフードを持ち上げた。
「……っ!」
ロッドは思わず剣士の腕を掴む。
「……何だ」
その声はかなり不機嫌そうで。
ロッドはすぐに掴んだ手を放す。
「あ、いや、雇われてたって事は金が必要なんだろ?俺と組んでこいつの賞金山分けしようぜ?」
その時、二人に向かって馬車が突っ込んで来た。
「俺は逃げさせてもらう!じゃあな、役立たずの剣士に間抜けな賞金稼ぎ!」
二人は間一髪でそれを躱すと同時に、馬車の車軸を壊す。
すると馬車は横転し、ザプロスは道に放り出される。馬だけはそのまま走り去ってしまった。
「だーれがマヌケだってぇ〜?」
「悪党の為に振るう剣は無い!」
「ひっ……!」
ザプロスは怒った二人にボコられた。