悪がはびこるこの時代、悪党に懸けられた懸賞金で生活をする者達がいる。
彼らは賞金稼ぎ〈ブラックリストハンター〉と呼ばれていた。
ブラックリストハンターに必要なのは己の腕と、許可証〈ライセンス〉だけ。ライセンスが無ければ、いくら賞金首を捕まえても賞金は貰えない。
そうは言っても簡単な査定と手続きで、誰でもブラックリストハンターになれる。その先は自分次第だ。
ロッドはそのブラックリストハンターだった。
「なぁ、このまま俺と一緒に来ないか?」
あの後ザプロスを近くの街の役人に引き渡し、賞金を山分けした時の事だ。
「どうせアテなんて無いんだろ?」
しかし。
「断る。……私は次の雇主を探す」
そう言うとその剣士――名をクロスと言う――は立ち上がり、踵を返してそのまま歩き出した。
クロスは街に着くまでもずっとこんな感じだった。
ロッドが話し掛けたり、質問等をしても全てつっけんどんに答え、名前もやっとの事で聞き出したのだ。
「待てよ!なぁ、一緒に旅しようぜ?アンタ強いしさ、俺と組も?クロス」
しつこく食い下がってみるものの、クロスは殆ど相手にしてくれない。
「貴様は一人でも十分な筈だ」
最初はそんな調子だったクロスも、しつこく追い掛けて来るロッドに段々と苛立ちを募らせ、とうとう振り返った。
「何なんだ貴様は!?先程からしつこいぞ!一人で十分強いくせに、そんなに仲間が欲しいなら他を当たれ!」
だが次の瞬間、ロッドの発した言葉にクロスは驚いた。
「俺はクロスがいいんだ。だって女の子と一緒の方が楽しいし♪」
「!」
「隠してるみたいだけどさ、判るよ。美人なら特に。それとも……」
ロッドはおもむろにクロスのフードを手で払う。
「隠してるのはコッチ?」
フードが外され、クロスの素顔が陽の下に晒される。
雪の様に白い肌、陽の光に透ける銀の髪。
そして。
血の様に赤い両の瞳。
異形。
「……っ!?」
突然の事にクロスは慌てるが、ロッドは気にしない、といった感じで彼女の頬を手で触れる。
「さっきチラッと見えた時も思ったけど、やっぱ綺麗だ」
優しい眼差し。
暖かい手。
しかし。
「気安く触るな!」
クロスはその手を振り払い、その場を駆け出す。
「待てよ!誰も雇ってなんかくれねーよ……悪党以外はな」
「!」
ロッドの言葉にクロスは足を止める。
「訳ありの人間を雇うのは訳ありの人間だけだ」
「……」
「悪党は嫌なんだろ?」
ロッドはクロスの反応を待つ。これで駄目なら望みは薄い。
「……私は誰とも組まない。一人で賞金稼ぎになる」
そう言ってクロスはまた歩き出す。
「〜っ!…クロスやり方分ってる?何処に行ってどうしたらライセンス取れるかさ。俺と組めばそんな手間いらないし。だから俺と組も。な?クロスー」
「……では教えろ」
「嫌だね。教えたらクロス手続きしちゃうじゃんー!だから教えなーい」
子供の様につーんとそっぽを向くロッドに、半ば呆れながらクロスは聞く。
「何故私に付き纏う?」
するとロッドは少し微笑んで、優しい眼差しをクロスに向ける。
「……好きだから」
しかし、すぐにニカッと笑うと急にふざけたような態度になる。
「だってクロス美人だしー♪」
「……」
聞いた自分が馬鹿らしく思って、クロスは少し早足で歩く。
「あ、ちょっとクロス?」
その時、突然遠くで悲鳴らしきものが聞こえた。
「!?」
二人は、一斉に声の聞こえた方に向かって走り出した。