目的地は森の休憩小屋。リグナム達は、そこに居るらしい。
 森を歩きながら、ロッドはクロスに話し掛けた。
「やっぱ似合うよ。可愛い。……何で男の格好で男のフリして隠すのさ。勿体ない。髪だって眼だって、神秘的で綺麗じゃん」
 可愛いと言われ、クロスは少し困惑する。
「……私は男として振る舞うよう、躾られて育った。髪と眼に関しては……お前のような反応は、普通しない」
「何で?」
「余計な詮索だ。……これが片付いたら今度こそ付き纏うな。いいな?」
 クロスはそれっきり黙ってしまった。

 ロッドはクロスの横顔を見ながら考える。

 銀の髪に赤い瞳。
 異形と呼ばれる理由。


 その昔、世界を恐怖と、混乱に陥れた悪魔がいた。
 見る者を惑わす銀の髪と、血の様に紅き眼を持つその悪魔は、あらゆる天変地異を引き起こし、その呪いにより世界の半数以上の人間が死に絶えた。
 ある人間達の手により悪魔は倒されるが、死の間際、その者達を道連れにし、不吉な言葉を残した。
『いつの日か再び蘇り、お前達人間を根絶やしにしてやろう!』と。
 それ以来、銀の髪と赤い眼を持つ者は異形と呼ばれ、人々の畏怖と迫害の対象となっていった――。


 誰もが知る話だ。
「……ただの伝承じゃねーか……」
 馬鹿馬鹿しいと思う。
「着いたぞ」
 考えている内に目的地に着いたらしい。見張りらしき男が二人に気付いた。
「何だよ、たった二人か……おい、早く中に入れ!」
 その言葉に二人は顔を見合わせる。
「もしかして……」
「バレてない……?」
 確かに剣は見えないよう、背中に括り付けている。だがロッドの剣は大剣だし、それ以前にお世辞にも女性には見えない。
 一応罠という事も考え、警戒する。が。
「早くこっち来て酌しろ〜!」
「……」
 完全に油断しきっていた。
「……馬鹿だ……本物の馬鹿がいる……」
 ロッドがそう呟くと、クロスが小声で言う。
「茶番はいいだろう」
「そうだな。だけど殺すなよ?」
 そうして二人は行動に移る。
 剣の腹や柄で急所を狙い、次々と手下達を気絶させて行く。
 残ったのはリグナム一人だ。
「お前等、何者だ!?」
「ブラックリストハンター、ロッド=ベルゼーム」
「……クロスだ。但し、こいつの仲間ではない」
「あ、ひっで。そゆ事わざわざ言う?」
「行くぞ」
「……また無視ですか……」
 二人は難なくリグナムを倒し、全員を縛り上げた。


 村に戻ると全員に迎えられた。リグナムは役人に引き渡し、その後村を挙げてのお祭り騒ぎになった。
「手下は賞金無し、か。まぁいいや、三十万入ったし♪」
「では私はもう行く。その金は全部お前にやるから、もう私に付き纏うな」
「お、おいクロス……」
 クロスが立ち上がり歩き出した時だった。
「おーい、飲んでるかーっ!?」
 酔っ払った一人の村人が、クロスの頭をグシャグシャっと乱暴に撫でた。
「!?」
 その拍子にフードが外れ、クロスの素顔が露になる。

 銀の髪と赤い眼。
 人々の畏怖と迫害の対象。

 村中が一遍に静まり返った。
「……異形だ。異形がいるぞーっ!」
「悪魔よ、呪われるわ!」
「出て行け化物っ!」
 最初の一人を皮切りに、村人達はそう言い、中には石を投げる者もいた。
「おい、お前等、やめ……!」
 ロッドは抗議しようとするが、クロスは何も言わず、その場を走り去った。
「くそっ……!待てよ、クロス!」