クロスを追い掛けて、ロッドは村の外れの岩場まで来た。
そこでロッドが見つけたのは、岩陰で俯いているクロスの後ろ姿だった。
ロッドは少し残酷な事を思う。
――泣いてるといいな。
「……クロス」
静かに声を掛ける。
振り返ったクロスは泣いていなかった。
――泣いてればよかったのに。
そうすれば、抱き締められたのに。
「……何で何も言わなかったんだ?村の連中に」
「私が何か言ってその場が収まる程、簡単な問題では無いだろう。逆に悪化させるだけだ」
「でも、あの村を救ったのはクロスだろ!?」
「……慣れているからいい」
そう言ったクロスの表情は、半ば総てを諦めているようで。
「慣れてるってお前、おかしいだろ!?クロスは悪い事してねーじゃん!異形だからって何だよ!?」
ロッドは何だか悔しかった。
一方でクロスは動揺する。
異形という言葉。
しかし。
私には判る。
最初から気付いていた。こいつのこの瞳は、他の者とは違うと。
差別の眼差しではないと。
だが。
「……何故だ。お前は、私が怖くはないのか!?私は異形だ。他の者とは違う……化物なんだぞ!?」
その言葉に、ロッドは静かにゆっくりと口を開く。
「……本気で言ってんの、それ」
「……」
「本気で言ってんのかって言ってんだよ!化物?異形?何だそれ。そんなの髪と眼の色見て決め付けて、周りが騒いでるだけじゃん!なぁ、クロスは自分が化物だって本気でそう思ってる?」
心を。
「わ、私は……」
見透かされた気がした。
「……クロスは化物なの?」
ロッドは優しい眼をしていた。
「違う!私は…私だって人間だ!ただ、髪と眼の色が違うだけで……少し特殊なだけで……私は人間だ。化物なんかじゃない!」
思わず、叫んでしまっていた。
「うん、そうだな。クロスは俺と同じ人間だよ」
そう言ってロッドはニッコリと微笑った。
クロスは、そう言ってもらえたのがただ嬉しくて。
思わずその場にへたり込んでしまった。
「ど、どうしたんだ!?」
急な事にロッドは慌てる。
「は…ははっ……。馬鹿馬鹿しい。私は人間だ。たったそれだけの事で……」
まだ少しオロオロとしているロッドにクロスは言う。
「ロッド、もう何も言わない。付いて来たければ勝手にしろ」
「マジ!?やった!」
一緒にいるのも、ロッドなら悪くないと思った。
少なくとも、こいつは私を傷つけない。
それにきっとこの先も言ってくれるだろう。
当り前の事を。
当り前のように。
ただ。
きっと長くは一緒にいられない。それだけの理由が、自分にはある。
だが、それまでは。
いつか来る別れの時までは、この男に付き合ってみるのも、悪くはないかもしれない。