第三章〜迷子〜



「よし、着いた。商人の街、ラネーゼ!」
 ラネーゼは交易の街だ。街の至る所で露店が開かれている。
「この街は交易の拠点の一つでな。各国からの行商人が行き交って、手に入らない物は無いって言われてるくらいなんだ」
「そう、なのか……」
 活気のある街だ。思わず圧倒されてしまう。
 クロスは人々のやり取りを眺めながら思う。
 自分には無縁の世界。この人々が羨ましい。
「クロス、自由行動にしよっか。色々見て回りたいだろ?夕方頃に宿で落ち合えばいいしさ」
「……色々見て回りたいのはお前の方だろう。私は人込みは苦手だ」
「そっか、じゃあ食料とかだけ見て宿に行こっか」
 だがロッドは少し残念そうだ。
「色々見たいんだろう?遠慮するな、行って来い。……心配するな。勝手に居なくなったりしないから。ちゃんと宿で待っている」
 それを聞いて、ロッドは安心したように言う。
「うん、分かった。ありがと。……気、使わせてごめんな?」
「……気にするな」
 ロッドはまた後で、と言いながら、人込みに消えて行った。


 クロスは暫くボーッと人の流れを眺めていた。そうして、そろそろ宿に行こうかと立ち上がった時だった。
「……?」
 何かに引っ張られたような感覚。
 どうせマントが何かに引っ掛かったのだろうと思い見てみる。すると、見知らぬ子供が一人、クロスのマントの裾を掴んでいた。
「……私に何か用か?」
「……」
 しかしその子は何も答えず、俯いてただマントを強く掴んだ。
「……離してくれないか」
 すると、子供は首を横に振る。
「……あぁもう、クソッ。どうすればいいんだ……」
 仕方なくクロスが歩き出すと、子供も付いて来た。
「……私に、どうしろと言うんだ……」
 どうしたらいいのか分からず、クロスは仕方無しにロッドを探す事にした。
「……あの馬鹿、一体何処にいるんだ……?」


 町中を歩き回り、クロスはようやくロッドを見つける。
「ロッド!」
「クロス!?……どうしたんだ?そんな子供引っ提げて」
「知らん。勝手に付いて来るし、マントの裾を掴んだまま離そうとしないんだ。何とかしろ」
 言われてロッドは子供の前にしゃがみ、まじまじと見つめる。
「君、もしかして迷子?」
 すると子供は、クロスの後ろに隠れながら頷いた。
「……迷子、とは何だ?」
 そう聞いたのはクロスだ。
「道に迷ったり、親とか、連れとはぐれた子供……って、知らないの?」
「……」
 クロスは口をつぐむ。
「……まぁ別にいいけどさ」

 過去は詮索しない。
 クロスとの旅に必要なルールだ。気にはなるが仕方ない。

「君の名前、教えてくれないかな。俺はロッド。んで、君がくっついてるそっちがクロスだよ」
 すると子供はクロスを見上げ、マントを引っ張った。
「……?」
 怪訝そうな顔をするクロスに、ロッドはしゃがむように合図する。
 その通りにしゃがむと、子供は耳打ちをしてきた。
「あのね、ベリオドールっていうの」
「ベリオドールだそうだ」
「じゃあ、誰と来たのかな」
 ロッドの質問にまたも耳打ちで答える。
「おかあさんとおじいちゃん」
「……母と祖父らしい」

 ベリオドールは何故こんな面倒な事をするのだろうか?解らないままにクロスは溜息を吐いた。

「じゃあお母さん達探そうか!」
 そう言ってロッドはベリオドールを抱き上げた。
 しかし。
「あーはいはい、分かった分かった。クロスこの子抱っこしてあげて!」
 ベリオドールが暴れるので、ロッドはクロスに押し付けるように渡した。
「おい、何で私が……!」
「だって俺の事嫌がるんだもん。それにこの人込み。子供の目線じゃ見つけられないよ。俺達じゃ顔判らないし」
「う……」
 確かに、高い位置からなら探しやすいだろう。
「じゃ、行こっか」
 こうしてクロスとロッドは、ラネーゼ中を歩き回る事となった。