何時間も歩き回り、日が傾きかけた頃。
「……おかあさん!」
「ベリオドール!?」
ようやく母親が見つかり、ベリオドールは母の元へ駆けて行く。
「ありがとうございます。もう本当に、何とお礼を言っていいか……」
「いいですよ。当然の事をしたまでです」
無事家族も見つかったので、二人がその場を立ち去ろうとした時。
「ん……?どうしたんだ、ベリオドール」
気が付くとベリオドールがクロスの元へ来て、マントを引っ張っていた。あぁそうかと思い、クロスはしゃがむ。
「あの、あのね、ありがとう、クロスおねえちゃん。それとね、そのおめめとかみのいろきれーだね」
そうして今度はロッドに向かって言う。
「ロッドおにいちゃんも……ありがとう……」
だがもじもじと恥ずかしそうにし、すぐに母親の後ろに隠れてしまう。
「あら、この子ったら……ごめんなさいね、この子父親を早くに亡くして……そのせいか、男の人に対してはいつもこうなんです。きっと照れてるんだわ」
「何だ、やっぱ嫌われてた訳じゃなかったのか」
ロッドは内心、少しだけ安心する。
「では、私達はこれで。本当にありがとうございました」
「じゃーねー」
そう言ってベリオドール達は去って行った。
手を振って見送りながら、ロッドはクロスに聞く。
「で?いつまで固まってんの、クロス」
見ると、クロスはしゃがんだままの体勢で固まっていた。
「私の事、お姉ちゃん、て」
「あー。そういえば懐いてたもんな」
「それと、私の眼と髪の色を綺麗だ、と」
「……それってさ、怖くないって意味だよ。良かったじゃん」
そう言ったロッドは笑顔で。
「……そうだな」
クロスは温かいモノを感じて、悪くないと思った。
「はい、クロス!」
宿でロッドが差し出したのは、簡単な細工の、薄桃色の髪留めだった。
「クロスに似合うと思ってさ」
「……私に……?だが、フードを被っては意味が無いだろう」
クロスがそう言うと、ロッドは少しだけ困った顔をする。
「いや、そうだけどさー……いいから付けてみてよ」
「……」
クロスは溜息を吐き、仕方なく付ける事にした。
後ろ髪の両端を結い上げ、髪留めで留める。
「……これでいいのか?」
「……すっげー似合ってる!やっぱ思った通りだ♪」
ロッドのその言葉と満面の笑みに、クロスは悪い気はしない。そして、少しだけ呆れ顔で言う。
「今日、露店で買ったのか?」
「うん。クロスに何か、プレゼントしたくて……」
照れ臭そうに言うロッドに、クロスの表情は曇った。
「……私は人から何かを貰えるような、そんな人間ではない」
「そんな深く考えんなって。俺が勝手にやってる事だし……いらないなら、捨ててもいいんだから」
だが、その表情は少し寂しそうだった。
「……そんな顔するな。捨てやしないさ……ありがとう、ロッド」
「うん」
別に必要な物ではない。
だが、貰ってほんの少しだけ、嬉しかったのも、事実だから。