それは、宿の食堂でパンとサラダとスープの朝食を取っている時だった。
「新しい情報があるんだけどさ」
「……食事中に話すのは関心しないな」
ロッドの話は、あっさりクロスに切られてしまう。
「……普通食事時はほら、団欒って言うの?色々話しながら食べると思うぞ」
「私は行儀が悪いと教わった」
「そりゃ口の中に物入れて喋るのは行儀悪いけどさ」
「……情報とは?」
ロッドの言い分に納得したのか、クロスは口を開く。
「あぁ。二つ程先の街に、エジールっていう街があるんだけど、湖のほとりに古城があって、そこを“アレイト”っていう盗賊団が根城にしたらしいんだ。A級賞金首で、全員合わせて五百万!どう?」
「……やるしかないだろう」
ブラックリストハンターというのは、実はかなり日々の生活に幅がある。賞金首を捕らえても、懸けられた金額が少なければ賞金はすぐに底をつくし、勿論捕らえられなければ収入はゼロだからだ。
賞金首にはランクがあり、高いランク程高額だ。そして同時にそれは相手の強さも表している。
常に危険と、生死が隣り合わせの職業。それがブラックリストハンターだ。
ロッドの賞金の使い方にはパターンがあった。
大金が入ると、約半分をその日の内に飲み食いで使ってしまう。そうして次に賞金首を捕らえるまで、残りのお金で食い繋ぐ。その為、野宿の方が多い。
ロッド曰く、
「これがブラックリストハンターの醍醐味なんだよ」
らしい。
完全に気ままなその日暮し。最初はクロスも呆れた。
だが、何となく。
そういう生き方が羨ましくなった。
だが、いくら羨ましいと言ってもギリギリの生活。捕らえるチャンスがあるなら選り好みはしていられない。
二人はエジールに向かう事にした。
エジールは綺麗な湖と山々に囲まれた穏やかな街だ。
アレイト達盗賊団が現れるまでは。
昔、エジールには領主がいた。だが、度重なる戦や流行病で次第に領主の一族は廃れていった。
そうして残ったのが、今はもう誰も住まなくなった古城だ。
そこに盗賊団が目を付けた。
「昔の領主の城は砦の役割も兼ねていたそうだ。戦等で敵が攻めて来た時には女子供を城の中に避難させる。周りを湖と山々に囲まれた自然の要塞だから、籠城にはもってこいだ」
「湖は断崖絶壁、山は剣山みたいな形で、入れるのは正面のみ、か」
難攻不落の自然要塞。捕らえるのは難しいかもしれない。
「……良い領主だったのだろうな……」
クロスの突然の呟きを耳にして、ロッドは疑問に思った。
「何でそう思ったんだ?」
現状を見ただけで、過去に領主が良い人だったかどうかなど分からない。
「……この辺りには流行病が度々あると聞いた事がある。その病に効く薬は一人最低二十万ガルドは下らない。そんな薬が一般の人間に買えると思うか?」
「……無理だな」
ブラックリストハンターならともかく、一般の人間にポンと出せるような金額では無いだろう。
「流行病があるにも関わらず、この街は豊かなんだろう?盗賊団が根城にする程だからな。……領主が薬を民に買い与えた可能性は高い。そうでなければ、現状この街はもっと貧しいはずだ」
「……詳しいな」
クロスの知識に、ロッドは関心する。
それにしても。
「クロスがこんなに喋るの、初めて聞いた……」
いつもは相槌を打つ程度なのに。
「……それだけ盗賊団が許せないという事だ」
「成程ね」
フッと微笑って、クロスは街を見渡す。
見通しのいい大通りに人影は無く、各家の窓はと見ると、鎧戸までピッシリと閉められている。普段ならばこの通りは、人々が行き交い、笑顔が溢れ、穏やかな空気が町全体を包み込むのだろう。
しかし、今街を包んでいるのは緊張と恐怖、そして戦慄だ。
許せない。
何の権利があって、他人を虐げるのか。
怒りが込み上げてくる。
「……話が逸れたな。古城にはどう潜入する」
大きく息を吐いて、込み上げる怒りを押さえると、ロッドにそう言う。
「うーん……せめて、城の内部が分かればなぁ、まだ何とか……」
取り敢えず二人は情報収集の為、酒場兼宿屋に足を運ぶ事にした。