当然店は閉まっていたが、無理を言って開けてもらった。
「なぁマスター。古城の内部とかわかんない?盗賊団の人数とかでもいいし」
「さぁねぇ……悪さばっかしてた若い連中も、奴等の仲間になってるし……」
やり切れない話だ。同じ街の人間だった者に苦しめられるなんて。
「……盗賊団の中に潜り込めないかな。仲間のフリして」
ただ、その場合バレると厄介だ。
その時、外から誰かが暴れているような声が聞こえてきた。
「テメェ等納品の時間だぞ!殺されたくなかったら早くしろ!」
窓から見ると、盗賊団の一味らしき数人の男達が暴れていた。
「あれは?」
「……納品と称して金品や食料の搾取にくるんだよ」
すると、それを聞いたロッドが何かを思い付く。
「マスター。ちょっとモノは相談なんだけどさ……」
「……?」
クロスはただ首を傾げるしかなかった。
「クロス、もういいみたいだ」
「……ああ」
二人が今いるのは古城の食料庫。何とか潜入に成功したのだ。
「食料に紛れてってのは、いい作戦だろ?」
「……よく気付かれなかったモノだ」
二人の潜入方法は至って簡単。樽を二重底にして下に自分達、上に食料を詰めた。宿のマスターの協力あってこそだ。
但し、樽は隙間の目立つかなりのボロだったが。
「まぁまぁ……さて、どうしようか」
ロッドの言葉にクロスは呆れる。
「……何も考えていないのか……」
「ボス捕まえればいいと思うんだけどなー」
「問題は何処にいるか、か……」
「いや、見当は付いてる。ほら、よく言うだろ。何とかと煙は〜って。それに当主の部屋は高い所にあるもんだろ?当然、ボスもそこに居るハズ」
「……確かにな、そして恐らくは、入口から一番遠い部屋」
「問題は、城の内部構造と、手下の数」
だが、今のクロス達にそれを知る手段は無い。
「ま、行動あるのみ、だな」
二人は食料庫から出ると、見張りの目を気にしながら進む。
「……外からの見た目と中の造りを総合して……成程……そうすると……」
「先程から何をブツブツ言っている」
「いや、ちょっとね」
巡回の人間を何とかやり過ごし、階段等の見張りは仕方ないので素早い連携で気絶させていく。
「何か俺達、段々いいコンビになってない?」
「……気のせいだろう。先に行くぞ」
「……ひっどいなぁ」
言いながらロッドは思う。
クロスは他人を寄せ付けない。無理に壁を作ろうとしている節がある。
異形だから?
それもあるだろう。
だが。
そうではない何かがあるような気がしてならない。
――何をそんなに恐れる?
「……それともまだ、信用ねぇのかな、俺」
「いたぞー!侵入者だ!」
敵に見つかったのはロッドが呟くのとほぼ同時だった。追っ手は二人の後方からで数名いる。
「げっ!やっべ、逃げるぞ!」
しかし。
「こっちだ!絶対に逃がすな!」
前方からも来て、二人は挟み撃ちになってしまう。
左側に通路があったが、突き当たりは窓になっており、逃げ場は無い。
「くっそ……クロスこっち!」
そう言ってロッドは、左側の通路に入った。
「ロッド、そっちは行き止まり……!」
だが、ロッドは迷わず正面の窓を開け、窓枠に足を掛ける。
「覚悟決めろよクロス!」
次の瞬間――。
「待てロッド……っ!?」
クロスが止める前に、飛び降りた。
「ロッド!」
確か、もう四、五階は昇って来ているハズだ。いくら自分から飛び降りたといっても、無事では済まない。
クロスは慌てて窓から下を覗き込む。無事だといい。
眼下に広がっていたのは湖だった。城は断崖絶壁ギリギリに建っていて、成程、確かに侵入は無理だと思わせる。ここからだと、湖まで高さ二十メートルはあるだろうか。その湖から、ロッドが手招きしている。
「……っ何だ、驚かせるな。バカロッド……」
無事で、良かった。
クロスがホッと一息吐いた時だった。
「追い詰めたぞ!」
追っ手はすぐ後ろまで迫っていた。
クロスは窓枠に足を掛け、振り向きざまに言う。
「残念」
そうして一気に湖へと飛び込んだ。
何とか逃げ切った二人は岸に上がり、街へと戻る。しかし、もう既に追っ手がクロス達を血眼になって探していた。
「やばいな……。クロス。一つ前の街まで戻ろう。夜までには着くはずだ」
だが、クロスはその意見に反対する。
「この街を見捨てると言うのか!?」
「しーっ!声大きいよクロス。……今俺達が出て行ったら、街に被害が出る。幸い、荷物は万が一の事を考えて、マスターの迷惑にならないように持って来てる。……辛いかもしれないけど、今は態勢を立て直す方が先だ。第一、こんなびしょ濡れの格好じゃ思うように動けないだろ?」
確かに。
ロッドの言う事にも一理ある。
服は水分を吸って重いし、肌に張り付いて動きにくい。
「……分かった」
悔しいが、仕方無い。
クロスとロッドは一つ前の街まで戻る事にした。
今は、態勢を立て直す為に。