朝になって、クロスとロッドは再びエジールへと向かう。
しかし。
クロスは何だか調子が悪かった。体中がだるく、何となく熱っぽい。
恐らく、昨日逃げる為に湖に飛び込んだ後、濡れたままで長時間過ごしたのが原因だろう。
だが、クロスはロッドにその事を告げずにいた。
弱っている事を知られたくなかった。
そんな所を、他人に見せたくなどなかった。
しかし、時間が経つにつれ症状はどんどん悪化するばかりで、クロスは歩いているのもやっとだった。
(……ヤバイ…かも……)
「――ってクロス聞いてる?」
「……何だ」
「何だ、って……どうしたんだ?いつものクロスらしくない。どっか具合でも悪いのか?」
そう言って触れようとしたロッドの手を、クロスは払い除ける。
「私に……触れるな……!」
しかしロッドは構わずクロスの額に手を触れる。
「……おい、すっげー熱じゃねーか!?何でこんなになるまで黙ってるんだ!」
「うるさい……!」
視界はぼやけ、声が頭に酷く響く。そんな中、振り絞るようにそう言って、クロスは気を失った。
額がヒンヤリして気持ちいい。
誰かの話し声が聞こえる。
ぼんやりとそう思いながら、クロスは目を開く。
「クロス。気が付いた?」
ロッドだ。心配そうに覗き込んでくる。
「……ここは……?」
「宿だよ。……ったく無茶して。肺炎起こしかけてたんだぞ?……なぁ、何で言わないの?調子悪い事。分かってたら、エジール行きだって延期したのに」
聞きながら、あぁ、先程の話し声は医者だったんだなと、そんな事を思う。
「……悪かったよ。言わなかった事。」
「なぁ……俺、そんなに信用出来ない?」
「……」
「そんなに頼りないかな、俺……」
落ち込んで、傷付いているようなロッドの声。その表情も、少し暗い。
「……病気の時はちゃんと言えよ。特に弱ってる女の子には優しいんだぜ、俺?……なんてな。……心配、なんだ。迷惑掛けたくないとか思ってんなら気にすんな。だから……」
「分かった。……今度からそうする」
クロスがそう言うと、ロッドは物凄く嬉しそうな顔をする。
「ありがと。……少し寝た方がいい」
そう言ってロッドはクロスの頬に触れる。
少し冷たい手が、クロスには心地良く感じられた。
「ああ。そうさせてもらう……」
満足気にそう言って、クロスは目を閉じる。
やがてクロスが安らかな寝息を立て始めると、ロッドは呟く。
「ゆっくりお休みクロス……俺の大切な人……」
そうしてロッドはクロスの手を取り、口付けた。
クロスの体調が回復したのは、それから二日後の事だった。
「体の方はもう大丈夫なのか?」
「ああ。……悪かった。付きっきりで看病させて、その……迷惑を、掛けた」
「いいって、あんま気にすんな。……まぁ俺としては?もっと甘えて欲しかったかなって……」
「バカも休み休み言え」
「……うん。いつものクロスだ。じゃ行こっか」
クロスが熱を出している間に、盗賊団は捕まっていた。どうやら複数のブラックリストハンターが狙っていたらしく、手を組んで捕まえたらしい。
仕方なくクロス達は別の街へと移動する事にした。