道中、ロッドはいつにも増して喋っていた。
暫くはそのまま聞き流していたクロスだったが、いい加減うっとおしくなってきて文句を言おうとした、その時。
「おい、いい加減……ロッド!?」
ロッドがその場に倒れた。
急いで抱き起こすと、息は荒く、汗もビッショリで、額に手を当てると案の定、物凄い熱だった。
「ロッド!何故黙っていた!?私には病気の時は言えと言ったくせに何故自分は言わない!……私のがうつったんだろう?付きっきりで看病してたから……」
「気にすんな……クロスのせいじゃない。……それに、俺はヘーキ。だから……そんな哀しそうな顔すんな……な?」
熱で苦しい筈なのに。
それでもロッドは笑って見せる。
それを見て、クロスは余計に辛くなる。
「……病気の時くらい、優しくしてやる」
「本当?へへっ……嬉しいな。じゃあ甘えちゃおっかなぁ……」
「取り合えずここにもたれ掛かれ。座れるか?」
クロスはロッドを木の根に座らせ、幹に寄り掛からせる。
「確か、解熱作用のある薬草が少し戻った所に生えていたな。……取って来るから少し待っていろ」
「いい」
行こうとするクロスを引き止め、ロッドは彼女を強く抱き締める。
「……クロスが傍にいないと、嫌だ」
「……ロッド……」
まるで子供の様に駄々をこね、暫くそのままクロスを抱き締めて。
そうして、急に放した。
「ごめん。困るよな」
だが、今度はクロスの方から抱き付く。
「……今だけ許す。こうしていたいんだろ?」
「クロスが優しい〜っ」
再びクロスを抱き締め、満足気に笑みを浮かべる。
「大好きだよ。……この世界で、クロスが一番大切だ……」
熱に浮かされたような言葉を、熱で潤んだ強い瞳で言われ、クロスは思わず顔を赤くする。
逞しい腕に力強く抱かれ、先程から心臓の鼓動はどんどん速くなっている。
クロスはロッドにそっと身を委ねた。
何故だかそうしたかった。自分もまだ、熱があるのかもしれない。
そう思いながらも、クロスは安らぎを感じていた。
クロスには誰かに抱き締めてもらった記憶など無い。好きだとか、大切だと言われた事も、まして傍にいないと嫌だ、などと必要とされた事も無かった。
逆の事なら、何度も、数え切れないくらい言われた。
疎まれ、蔑まれ、虐げられてきた日々。
他人にとって、自分はいらない人間なのだと、そう思っていた。
だけど。
ロッドだけは、今迄会った誰とも違っていた。
だから、傍にいたい。
クロスは初めてそう思った。