第六章〜亀裂〜



 それは、コパリ街道と呼ばれる街道を二人が歩いている時だった。
 二人の前方には男が一人歩いていたが、急に立ち止まり周囲を見回すと、街道を外れ林の中へと入っていった。
「……怪しいな」
 ロッドはそう呟いたかと思うと、男を追って林の中に入って行く。
「おいロッド?あの男が何か……」
 クロスも林の中に入りロッドを追う。
「アイツ絶対怪しい。もしかしたら賞金首かも」
「……」
 半信半疑のまま、クロスは付いて行く。そんな都合良くいく訳ない。
 なのに。
「……見ろよ、当たりだ」
 立ち止まったロッドの示す先には、人相の悪い男達が十数名いた。
「あのハゲ、グラベルって言うB級の賞金首だ。こっちの方に来てるって噂だったけど、まさかこんな所にいるとはな」
 グラベルは主に、街道を通る金持ちや物資等を待ち伏せて襲うらしい。
「金の輸送とかあるのかもな。……よし。クロス、ここで待ってて。俺ちょっと街道の向こうの方見てくるから。……一人で切り込んだりするなよ?」
 そう言い残してロッドは行ってしまう。

 一人残されたクロスは正確な人数把握の為、もう少し近付く事にした。
(……十三…十四…十五……意外にいるな……)
 その時、後ろから声がした。
「何だテメェ!?ここで何してやがる!」
(くっ、しまった……!)
 迂闊だった。
 まだ仲間がいたとは……。
 男の声に反応し集まった仲間に、クロスは完全に取り囲まれる。

 為す術も無く捕らえられたクロスは、後ろ手に縛られ、グラベルの前へと突き出される。
 乱暴に地面に投げ出され、その拍子にフードが外れてしまった。
「異形だ……」
「頭ぁ、やめましょうよ。異形には関わらない方が……」
「うるせぇ!どいつもこいつも情けねぇ。……本当に呪われるかどうか、た、確かめてやらぁ!」
 男達に動揺が走る中、グラベルだけは強がり、クロスに向かって剣を勢いよく突き出した。
 一瞬、クロスはピリッとした痛みを頬に感じる。
 その直後、生暖かいモノが頬を伝うのが判った。少し斬られたのだ。
「は…ははっ……見ろ!何も起こらねぇ!異形と言っても何の力も持っちゃいねぇ、呪いなんてただの作り話だ!」
「……」
 クロスは黙ってグラベルを睨み付ける。
「……何だぁその眼は。気に食わねぇ……」
 そう言うとグラベルはクロスに馬乗りになる。
「異形の女ってのは、やっぱり普通と違うのか?……確かめてやるよ。さぁいつまでその強情が保つかな……」
 人を虐げる事に優越を感じているようなグラベルの顔が近付く。
 その表情に、クロスは怒りが込み上げる。

 人を人とも思わないような。
 こいつの方がよっぽど異形だ。
 反吐が出る。

 クロスはその顔に唾を吐いた。
「!?……このヤロウ!」
 反射的に顔を思いっ切り殴られ、その拍子に口の中を切った。
 鉄の味の生暖かい液体が、口の中に広がる。
 殴られたままの顔の向きでそれを吐き出し、グラベルをキッと睨み付けた。
「テメェ……どうやら死ぬ程後悔したいらしいな!」
 グラベルは逆上し、クロスの服を胸元から力任せに引き千切る。
「!」