丁度その時、ロッドが見張りらしき男を思い切り蹴り飛ばしながら現れた。
「クロス――っ!」
「ロッド!」
「――っ!?」
クロスの置かれている状況にロッドは絶句した。
馬乗りになられた上に服は引き千切られ、胸元が露になっている。
ロッドの中で、何かが切れた。
「……大切な俺のクロスに何してやがる――っ!!」
ロッドはそう叫ぶと剣を抜き、鞘をグラベルに向かって投げ付けた。
鞘は見事に命中し、グラベルはのけ反って倒れた。
クロスは起き上がり、グラベルを足蹴にして離れ、適当な木に寄り掛かる。
「せめてこの手が自由になればな……」
後ろ手に縛られどうする事も出来ず、仕方なくロッドを見守る。
「しかし……ブチ切れているのに一人も殺していないとは……生け捕りが体に染み付いているんだな……」
そんな事を呟きながら膝を立てる。胸元が少し寒い。
暫くして全員を倒したロッドは、クロスの元へと駆けて来た。
「今縄切ってやる」
縄を切ってもらい手が自由になると、急に恥ずかしくなってクロスは服を押さえ、はだけた胸元を隠す。
顔が熱い。
ロッドを意識した途端に思う事に、クロスは戸惑う。
「クロス、その頬……」
「!」
顔が赤いのを指摘されると思ったクロスは思わず眼をきつく瞑る。
しかしクロスの頬に触れたロッドが言ったのは。
「アイツに斬られたのか?」
「……え」
「それに少し腫れて……口の中も切ってる?」
グラベルに切られたり殴られたりした痕の事だった。
「ん……あぁ……平気だ。皮一枚切れた程度だし、腫れだってすぐに引く。赤くなってるだけだ。口の中を切ったのだって、問題ない」
だがロッドはひっくり返っているグラベルに剣を突き付ける。
「ロッド……?」
「こいつだけは……!」
そうして剣を振り上げた。
「やめろ!」
クロスは思わずロッドにしがみつく。
「何で止めるんだ!?こいつはクロスの顔に傷を付けた!クロスを傷付けようとした!だから……!」
「顔の傷なんて私は気にしない!……お前が来てくれたから私は何ともない」
「クロス……」
それよりも。
「お前が人を殺すのを見たくない。一時の感情に流されこいつを殺しても、後でお前が後悔するのは目に見えている。……私はそれを見るのは嫌だ」
「クロス……そう、だな。悪い。……サンキュ」
泣きそうな顔で微笑んだロッドは鞘を拾い剣を収めると、自分の旅用のマントをクロスに羽織らせた。
「街に行ったらその服何とかして、マントの留め具も直さないとな」
いつものロッドに戻った気がして、クロスは安心した。
「処で……なぁロッド?いつ私がお前のモノになったんだ」
「あ」
『大切な俺のクロスに何してやがる――っ!!』
思わず言っていた言葉に、ロッドは少し照れる。
「えっと……言葉のアヤ?」
二人は少し笑った。
「なぁクロス」
街で懸賞金を貰った後、ロッドは少し不機嫌な口調で話を切り出した。
「あれから考えたんだけどさ……もう少し慎重に行動しろよ。今回はたまたま間に合ったから良かったようなものの……」
「悪かった。反省している」
だがクロスのぶっきらぼうな返事に、ロッドはカチンとくる。
「何だよ、その言い方は。人が心配してるってのに」
「もういいだろう別に。何もなかったんだし、今後は気をつける」
「もういいって事はないだろ!?自分が女だって事をもう少し自覚しろよ!」
「男とか女とか、関係無いだろう!?自覚した所で何が変わると言うんだ!」
売り言葉に買い言葉で、言い合いはどんどんエスカレートしていく。
「クロスの分からず屋!」
「ロッドのお節介!」
そのまま二人は睨み合う。
「「フンッ!」」
そう言ってそっぽを向くと、お互い別々の方向に歩き出した。