クロスはロッドの言葉を思い出して腹を立てていた。
「何なんだクソッ。ロッドの奴……今更……。大体、アイツは初めて会った時からしつこくて、うるさくて……迷惑だったんだ。いつも馬鹿みたいにニコニコして……なのに、あんな……怒った顔……」
ケンカなんて。
したくなかった。
「ロッド……」
その時だった。
「誰か!ひったくりよーっ!」
その悲鳴に反応して、クロスは駆け出した。
一方その頃。
クロスとは別方向に歩き出したロッドも腹を立てていた。
「何だよ、こっちはすっげー心配してるってのに!もしあの時俺が間に合ってなかったら……あーもーっ!考えたくもねぇ!……クロス……」
初めて会った時。
クロスが、精霊だとか、女神だとか、何かそういう神秘的な存在に見えた。
でも話をして、一緒にいて、旅をして。
普通の女の子なのだとわかった。
強がっているけど、本当は弱くて。
ぶっきらぼうで冷たく見えるけど、凄く優しくて。
大切な存在になっていく。
大好きな女の子だから、男として守ってやりたい。
守りたいという気持ちが、強くなっていく。
なのに。
「……何でこうなるかな……」
落ち込むロッドだったが、視界の端にふと一人の男を捉えた。
女物のバッグを抱えて走っている。
「あれは確かF級賞金首の……大した奴じゃねーけど……まっ、気晴らしぐらいにはなるだろ」
ロッドはその男を追う事にした。
クロスはひったくりを取り押さえていた。だがそこに、仲間が背後から鉄パイプのようなもので殴り掛かる。
「クロスっ!」
間一髪、その男を押さえ込んだのはロッドだ。
実は二人が別々に追っていたのはグルになって悪さをしている男達だった。
「もう少し慎重に行動しろって言ったろ」
やれやれと溜息を吐くロッドを、あろう事かクロスは突き飛ばした。
「な……!?」
そうして剣を抜く。
「油断大敵だなロッド」
クロスの剣の切っ先は、ロッドの背後にいた三人目に向けられていた。
「……サンキュ」
三人をまとめて役所に突き出し、二人は歩き出す。
何となく気まずくて、お互いに一言も話そうとしない。
「……なぁクロス」
先に口を開いたのはロッドだった。
「……何だ」
「さっきは、その……ゴメン。言い過ぎた。……でも俺、クロスの事守りたいんだ。何かあってからじゃ後悔するし、だから……」
「お節介」
「な……っ!」
クロスの言葉にロッドはまたカチンとくる。
しかし構わずクロスは続ける。
「私は守ってもらう程弱くない」
「クロス!俺が言ってるのはそういう事じゃなくて……!」
「私は!……お前と共に戦いたい。お互い安心して背中を預けられるように。一方的に守ってもらうなんて嫌だ!……私は、足手纏いになんか……」
そう。足手纏いになんか、なりたくない。
「クロス……」
悔しそうな顔をするクロスをロッドは優しく抱き締める。
「……クロスの事は、俺が守る。守りたいんだ。だから代わりに、クロスが俺の事守ってよ。それじゃダメか?」
「……それなら、いい」
少しむくれたように言うクロスが可愛くて。
愛しくて。
ロッドはクロスをギュッと抱き締めた。
「ちょっと、おいロッド!は、離せコラ、調子に乗るなっ!」
しかしロッドは離そうとしない。
その為、後でクロスに思いっ切り殴られる結果になるのだが。