宿を取ると、ロッドは部屋に鍵を掛けカーテンを閉める。
「どうしたんだ。お前何か変だぞ?」
クロスが聞くと、ロッドは大きく溜息を吐いて話し始めた。
「……昔ゼノスと組んで賞金首を捕まえた時なんだけど……そいつらは人身売買の奴等で、リリーは被害者の内の一人だったんだ。で、助け出した時にどうも俺の事好きになったらしくて。……それから暫くストーカーされてた」
ストーカー。
「……ストーカーって……何だ?」
聞かれてロッドは思わずずっこける。
「……あのなぁ……ストーカーって言うのはつまりまぁ簡単に言うと、ずっと付け回されてたって事かな」
呆れながらもロッドは思う。
迷子すら知らなかったんだし。無理ないかも。
「迷惑な話だな、それは」
率直な感想を言ってクロスはふと考える。
「……あぁ、出会った頃のお前と同じなんだな」
「え」
クロスは妙に納得している。
確かに近いものはあるのだけれど。
「とにかく!あの時はかなりしつこくて、終いには一緒に行くってきかないから、相棒は要らないって言って夜中の内に宿抜け出して、やっとの思いで逃げたんだ。だから今回も……」
そう言っていると、ドアを開けようと一生懸命ドアノブをガチャガチャさせる音が聞こえてきた。
「ロッドー!?開けてよぉ!一緒に夕食食べましょうよぉ!」
「……来た……」
ロッドの顔は明らかにゲンナリとしていて。
「ゴメン……クロスにも迷惑掛けると思う」
すると今度はドアに体当たりをする音が聞こえてきた。
「……ロッド、悪かった。彼女に比べればお前のはストーカーではないな」
既にドアはぶち破られ、笑顔のリリーアンヌが立っている。
「さぁロッド。一緒に夕食にしましょ♪」
二人は大きく溜息を吐くしかなかった。
夕食の席でロッドは小声でゼノスに話し掛ける。
「そもそも、何でリリーがいるんだよ!?」
「しょうがねーだろ、押し切られたんだから。それもこれも、お前が逃げるから俺にまでとばっちりが……」
「二人で何をコソコソ話してるの?」
リリーアンヌにそう聞かれ、慌てて二人は何でもない、と口を揃えて言う。
「……ところで、クロスさん、でしたっけ?食事時はフードを外されたら?」
気分を害したのか、そう言うリリーアンヌに、ロッドは内心ギクッとしてダラダラと嫌な汗を流す。
「……私の育った地方では、人が大勢いる前では素顔を隠す、という習わしがあるんだ。気分を害したのならすまない」
「それなら仕方ありませんね」
ナイスだクロス。うまく躱した。
内心クロスよりも、ロッドの方が落ち着かない。
「……で、貴方ロッドと旅をしているんですよね。どういう成り行きで?」
「私はまだライセンスを持っていない。それで」
「じゃあライセンスを取ったら、ロッドとは別々に仕事を?良かった♪」
クロスの話を遮って、リリーアンヌは勝手に話を進める。
ヤバイ。どうしよう。
このままではまたリリーに付き纏われる。
しかも今度は逃げられない気がする。
いっそ夜中の内に街を出るか。
いや、今回はそれを見越して一晩中見張られるかも。
何かいい方法が無いかとあれこれ考えるが、何も思い付かない。
そんなロッドの肩にゼノスは手を置く。
「ロッド……諦めろ」
憐れむ顔でそう言われれば、もう言い返す気力すら無くなっていた。