そのまま宿に戻った二人は、お互い無言でそれぞれのベッドに座っていた。
 何となく気まずい。だがこのままでもいられない。
 そう思ったクロスは口を開く。
「ロッド、あの……」
「なぁクロス。最初からあのくらい突き放してた方が、良かったんだよな」
 クロスの言葉を遮るようにロッドは言う。
「あれぐらい言えば、諦めてくれるよな。……それとも、言い過ぎたかな」
 落ち込んでいる様子のロッドに、クロスは軽く溜息を吐いて言う。
「……言い過ぎかどうかは分からないが多分、諦める」
「……そっち、行ってもいい?」
 情けなく笑ってロッドはクロスの隣に座ると、その肩に頭を乗せた。
「ロッド……?」
「俺、憎まれ役ってあんま向いてないんだぁ……でも俺はもう、クロスを選んでるから。リリーの気持ちには答えられないから……」
「……そうか」
 暫く二人は無言でそうしていた。


 次の日の朝、宿を発とうとした時。
「待ってロッド!」
 そう呼び止めたのはリリーアンヌだ。
「リリーアンヌ……」
 まだ諦めていないのだろうか?
 これ以上どうすれば諦めてもらえるのだろう。
 だが、違っていた。
 リリーアンヌはキッとロッドを見据える。
「いつか絶対後悔させてあげるわ、私を振った事。飛び切りイイ女になって、その時に気付いたって遅いんだから!」
 そう言って背を向けた肩は震えていて。
 泣いているのかもしれない。
「そういう事らしい。ロッド、元気でな」
 ロッドは何かを言おうとして。
 だがそれをグッと堪える。
「……あぁ、元気でな」
「……」
 そうして別れを告げると、もう振り返らずにピュノスの街を後にした。


 道中、クロスはロッドに問い掛ける。
「なぁロッド。あれで良かったのか?」
「……あれで、良かったんだと思う。もし俺があそこで声を掛けたら、きっと全部台無しだ。……俺が突き放した事も、リリーの決意も」
 ロッドは少しだけ、辛そうな笑顔だった。
「そうか。ならもう何も言わない。」
 この話はそれきりで。
 二人の話題は次にどの賞金首を狙うかになった。