この頃のロッドは変だ。クロスはそう感じていた。
急に宿を発ったり、街でも細道に入ったり。
今も街道を歩いていたのに、脇道に逸れて森の中を走っている。
「おいロッド!どうしたというんだ、急に……!」
「いいからちゃんと付いて来て!」
だがその時、急に足下が抜けた感じがして二人は落下する。
「何だ何だぁ!?」
「うわぁぁぁ!」
落下はすぐに終わり、地面にお尻を強くぶつけた。
「痛ってぇ〜!」
「……ったぁ……」
そこはちょっとした空洞になっていた。
上を見るが光は遠く、どうも登れそうにない。
「枯れ井戸か?クロス、大丈夫か?……クロス?」
声を掛けると返事の代わりに服の袖を掴まれ、後ろにいるんだな、と思い振り向こうとする。
「こっちを向くな!」
「はいっ!」
突然大声でそう言われ、ロッドは思わず返事をし、前を向く。
するとクロスが背中に額をコツンと当ててくるのを感じた。
「……?どうした?」
「ダメ……なんだ。真っ暗で、狭い所は……」
声が、震えている。
ロッドは思わず振り返った。
「こっちを向くなと……!」
クロスは困惑した口調だったが、ロッドは構わず抱き締める。
「……震えてる。暗くてよく見えないけど……泣いてたりする?」
「……っまだ、泣いていない」
それは今にも泣き出しそうな声で。
とても愛しく思えた。
「クロス、目、閉じて。俺の存在だけ感じて?そしたらきっと怖くなくなる」
「うん……」
クロスは言われた通りにする。
(あ……あったかい……)
ロッドの体温に包まれて何だか安心したクロスは、自然とその身をロッドに委ね、寄り掛かる。
そんなクロスにロッドは内心かなりご満悦だ。
可愛い。
こんなに素直に甘えてくるのは初めてだ。
ロッドはクロスをギュッと抱き締める。
クロスにこんな弱点があったとは。
でもどうやってここから出る?いつまでもここにいたらクロスが可哀相だ。
あれこれ考えながら、ロッドは後ろにもたれ掛かる。
しかし。
「うわっ!?」
ボコッという音がしたかと思うと、そのまま後ろに倒れてしまった。
「……ってぇ……横穴か?って事はクロス、出られるかもよ、行こ?」
予想通りなら何処かに出られるハズだ。
しかしクロスはロッドに寄り掛かったままだ。
「ん……ロッド、その……」
「何?……あぁそっか。ほら、こうして手を繋いでてあげる」
「……うん」
二人は手を繋いで横穴を進む。
幸い横穴はそれ程低くもなく、中腰程度にしゃがめば歩けた。
そうして数十分は歩いただろうか?
通路は次第に広く、高くなり、光が見えてきた。
「出口だ」
最後の方はもう駆け出して外へと出る。
急に開けた視界に目を細め、徐々に光に慣れると、眼下に街が広がっているのが見えた。
「ダリナスタウンだ」
どうやら結果的には近道になったらしい。
「……行くぞ」
外に出た途端、クロスはいつも通りだ。
ロッドは少し残念に思う。
「怯えて震えるクロスを明るい所で見たかったなぁ……」
「?何か言ったか」
「いや、何も」
そうして二人はダリナスタウンへと向かった。