国へと戻る馬車の中。
クロスは陰鬱な様子で窓から外を眺めていた。
ふと視線を感じそちらを見ると、スフォードが少し驚いた顔を向けている。
「……何か?」
怪訝そうに言えば、スフォードは眉をひそめる。
「いえ、そちらの……今姫がお付けになっている髪留めですが。……そのような物、どうされました?」
それは簡単な細工の、薄桃色の髪留め。
ロッドに貰ってからずっと身に付けている物だ。例え、フードに隠れて見えないとしても。
とても、大切な――。
「……」
「……あの男からの贈り物ですか?」
「!……いえ……その……」
否定しようとして、だがスフォードに誤魔化しは通用しない。
「……はい」
「……お言葉ですが姫。城に戻ればもっと上等の、姫に似つかわしく相応しい物が揃っております。……そのような安物の細工等、一国の姫が身に付けるべき物ではありません」
その言葉にクロスは思わず声を上げる。
「これは……っ!……これは私の大切な物です。口を慎みなさい」
「……御意」
その後、車内には沈黙が続いた。