ある日の事だった。
一体何処から入り込んだのだろうか、一匹の野良猫がいた。
その猫は、どうやら城の残飯を漁りに来ているようだった。
いつも同じ時間に中庭を横切り。
いつも怒鳴り声がした後に、何かを咥えて、来た道を走り去っていく。
ロザリオにはその猫が、何処から来て何処に行くのか、不思議だった。
猫を見掛けるようになってから、何週間か経ったある日。
その日もいつも通り、中庭で剣術指南を受けていた。
途中スフォードが何事か呼ばれ、戻るまで休憩と言われ、一息ついて中庭を眺めている時だった。
いつもの猫が、ロザリオの前を走り去った。
いつも、そのまま走り去る猫を眺めて、それでお終い。
その筈だった。
突然、猫がロザリオの前で止まりさえしなければ。
猫はロザリオをじっと見て。
また急に走り出した。
それを見てロザリオは、反射的に猫の後を追って走り出した。
「ロザリオ様!?」
後ろの方で、スフォードが自分を呼ぶ声が聞こえた。
しかし、今のロザリオには猫を追う事の方が大事に思えて。
止まらなかった。
猫の後を追い、城壁に沿って走って行くと、一ヶ所だけ壁が脆くなって、崩れている部分があった。
それは、丁度子供が通り抜けられる位の大きさで。
少しだけ躊躇して。
そして思い切って通り抜けた。
途端に風が、吹き抜けた。
見渡す限り壁の無い風景。
遠くの方からは、何だか楽しげな、子供達の遊ぶ声。
自由な城の外の世界。
自分が、本当に求める世界。
自然に涙が溢れた。
胸が凄くドキドキして、ワクワクする。
同時に不安になった。
自分は異形だ。
それがばれたら、街では一体どんな扱いを受けるのだろう?
ロザリオはそんな考えを振り払うかのように頭を振ると、不安を隠すようにフードを深く被った。