街は何だか賑やかだった。
 城の中にいた時に感じていた、重く暗い雰囲気は何処にも無い。
 華やかな通り。溢れる人々の笑顔。
 そういう物を見ているだけで、楽しくなった。

 街並みを抜けると、そこには小高い丘があった。
 見晴らしが良く、気持ちのいい風が吹いている。
 丘の上には大きな木が立っており、そこまで行ってみる事にした。
 木の側まで行くと、ロザリオは思いっきり体を伸ばす。
「うー……んっ…あー……気持ちいー……」

 流れゆく雲。
 小鳥達のさえずりが聞こえる。
 のんびりと、穏やかな時間。
 知らなかった事ばかりだ。
 城では休む間も無く知識を教え込まれ、空を見上げる余裕すらなかった。
 思い切って草の上に寝そべってみる。
 心地良い。何だかずっとこうしていたい。

「……誰もいない、よね?」
 フードを外したくなって、ロザリオは周囲を見渡す。
 すると今迄気付かなかったが、木陰に誰かいるのが見えた。
 そっと近付いてみると、その人物は膝を立て、顔を伏せていた。
 ……泣いているように見えた。
 そう思ったら、地下の、あの真っ暗な部屋を思い出した。
 あの頃の自分と重なる。

 どうしてだろう。
 空はこんなにも青いのに。人々には笑顔が溢れているのに。
 こんなにも自由なのに。
 どうしてこの人は。
 この人だけは。
 城の中の自分と重なるのだろう。
 この人の周りだけ、暗く、重く、沈んだ。
 そんな感じ。

「……あ、の……どう…したんです、か……?」
 苦しくて、見ていられなかった。
 そう思ったら、声を掛けてしまっていた。
 とても、とても小さな声で。
 ロザリオの声が聞こえたのか、その人物が顔を上げた。
「……何?」
 泣いては、いなかった。
「どうして、そんなに悲しそうなの……?」
 自分より、少し年上に見える少年。
 何だか、放って置いてはいけない気がした。
「……関係ない」
 だが、少年は拒絶するようにそう言うと、再び顔を伏せてしまう。
「……ごめんなさい……」
 冷たくされた事が悲しくて、ロザリオは俯いた。