「……親父が」
「え……?」
 ポツリと呟くような声に反射的に顔を上げると、少年は顔を上げていた。
 膝を抱えた腕に顔の半分を埋め、瞳は正面の、何処か遠くを眺めるように。
 ポツリ、ポツリと、話し始めた。


 親父が死んだんだ。
 親父とは、ずっと旅をしながら暮らしてて。
 賞金稼ぎだった。
 賞金首を捕まえて、その賞金で生活してた。
 気ままなその日暮らしでさ。
 金が無くて、死にかけた事もあった。
 でも……楽しかった。
 なのに。
 病気で呆気なく……。
 ……どうすればいいか、分からないんだ。
 何のアテも無くて。
 何をすればいいかも分からなくて。
 本当に、どうしようもないんだ――。


 そう言って少年は、再び顔を伏せてしまった。
「……でも」
 ロザリオは拳をギュッと握り締めると、意を決して口を開いた。
「でも、貴方は、この世界で自由で……アテとか、何をすれば、とかじゃなくて、何がしたいか、だと思うんです」
 ロザリオは、自分が何を言いたいのか、何を言おうとしているのか、分からなかった。

 だが、止められなかった。

「貴方は、自分がしたいと思う事が出来るんです。どうすれば、何をすれば、どうしようもない、じゃなくて、自分の意志で、こうしたいって考えて、行動出来るんです。……貴方には未来があって、それは決して暗い物なんかじゃないから、だから……!」
 言いながら、ロザリオは思った。
 そうか。私は。
 私には、明るい未来なんて、きっと一生望めないから。
 異形である私には、したい事なんて、あっても出来ないから。
 だから。
「羨ましい、です……」
 そう呟いて俯いてしまったロザリオに、彼は怪訝そうな顔を向ける。
「君は……一体……?」
 その時、一際強い風が丘を吹き抜けた。
 そして。
「っ!……異形……?」
「!?」
 驚きに見開かれた瞳と呟きに、ロザリオは今起こった事を瞬時に判断した。
 風で、フードが外れた。
 ばれてしまった。
 異形だと。
「……っ!」
 ロザリオは、とにかく慌ててフードを深く被る。
 何を言われるか分からない。
 何をされるか分からない。
 今のロザリオの頭にあるのは、これから起こると予測されるであろう事に対する恐怖。
 最悪の事態は、自らの……死。
 人々から疎まれ、蔑まれ、忌み嫌われて、迫害を受けた異形の者達の中の、最も悲惨な末路。

 逃げたい。ここから。今すぐに。

 だがそんな願いとは裏腹に、足は竦み、震え、動く事が出来ない。
 ロザリオは、その場から逃げ出す事も叶わず、ただただ、眼だけをきつく閉じる事しか出来なかった。