月日は瞬く間に流れ、ロザリオは十六になっていた。
 四肢は伸び、女性特有のふくよかさも出てきていた。
 しかし、ロザリオの服装は男性のそれだった。
 異形の、しかも女性が王位に就く、というのは、国にとって外交的に好ましくはないからだ。
 公式の場では男として振舞うように指導を受けた。


 そんなある日。
 状況は急速に変化した。
 王妃が、男児を産んだのだ。
 しかも今度は異形ではない。
「母上が、異形ではない男児を……そうか」
 これで、ロザリオが王位に就く、という事はなくなった。
 だがロザリオは、それを気にする事はなかった。
 むしろ恐れたのは、再び閉じ込められる事。
 一生を、あの暗い地下牢で過ごす事を考えただけでもぞっとする。
「いっそ、騎士団にでも志願するか……」
 自分の存在を知る者は少ない。
 ならば王族という立場を捨て、国の為に殉じるのも悪くはない。
 別に誰も困る事はないし、逆に喜ばれるかもしれない。

 ただ、あの闇にだけは絶対に戻りたくなかった。

「……もう、六年になるのか……」
 長いような、短いような、そんな年月。
「もう一度、外の世界に行きたいな……」
 闇の中で十年。そこから出されて六年。その間城の外に出たのは、後にも先にも、あの時一度だけだ。
「……外の世界に旅に出る、というのも、いいかもしれないな」
 ふと、もう顔も名前も覚えていない少年を思い出す。
「……元気かな……」

 思い出に浸っていると、部屋のドアがノックされた。
「はい」
「失礼致します。ロザリオ様、国王様がお呼びです」
 入って来たのはスフォードで、だがその表情は心なしか沈んでいる。
「父上が、私を……?」
 だが今のロザリオに、その表情の意味を考える余裕はなかった。
 何故なら父親に会った事など、今迄一度たりとして無かった事なのだから。


「……今、なんと……?」
 初めて会う父の口から出た言葉は、ロザリオにとって残酷なものだった。
「お前に縁談の話がきた、と言ったのだ。相手は隣国フィンネルの王子。……異形のお前を貰ってくれるのだ。喜べ」
 これ以上は話すのも嫌だというような表情の父の姿に、思わず側に控えるスフォードの方を見ると、彼は眼を閉じ、静かに立っているだけだった。
 まるで、話の内容を最初から知っていたかのように……。
 そう考えて、ロザリオは先程部屋に来た時のスフォードの様子を思い出す。
 沈んだ表情をしていた彼。あれは、この事を示唆していたのだ……。
 ロザリオは愕然とした。