フィンネルの王子と言えば、有名な珍品コレクター。
そして、我がリアス国国王である父が、予てより国交を結びたいと考えていたフィンネル国。
つまりは、完全な政略結婚。
しかも、これは結婚とは名ばかりで、ロザリオは完全な貢ぎ物だ。
異形という、珍品の。
成程、確かに王子という跡継ぎが誕生した今、異形の姫は邪魔な存在。
だが、隣国に差し出す事で国交が結べるのであれば、一石二鳥。願ったり叶ったりだろう。
ロザリオは、何も考えられなかった。
自分を珍品として扱うであろう男。
どんな扱いを受けるか分からない。
もしかしたら、あの暗い地下牢にいた方がまだマシだと思える程、酷い扱いを受けかねない。
「……嫌だ……」
逃げたい。
「……そうか……逃げればいいんだ……」
その考えに至れば、後はもう何も考えずに簡単な荷作りをして。
荷作りの仕方は、昔スフォードに教わった事のある、兵が遠征に行く時の実用的なものだ。
後は剣術稽古の時の動き易い服装に着替えて。
フードを被り、剣を持って。
昔、一度だけ外に出た時の、あの崩れた城壁を飛び越えて。
ロザリオは城から逃げ出した。
城壁が崩れたままなのはラッキーだった。
あの時の穴はもう通り抜けられないが、崩れた壁を足掛かりに城壁をよじ登り、無事外に出る事が出来た。
「さてと……どうしようかな……」
とにかく、今は出来るだけ城から離れたい。
街に行くと、ある張り紙が目に付いた。
急な護衛の仕事。行き先はネズラとなっている。
「ネズラ…か。丁度いいな。お金も必要だし……やってみようかな」
こうして、ロザリオの逃亡の旅は始まった。
クロスという名は初めての護衛の仕事の時、名を聞かれて咄嗟に答えたもので、その時に性別も男で通す事にし、それ以後その名を使い続けた。
護衛の仕事を続けながら各地を転々とし、一つの地に留まる事はしない。
何故なら、逃げ続けなければならなかったから。
目的地まで護衛をし、着いたらその近辺でまた新たな雇主を探す。
大抵は、危険な地に赴くとか、正規の護衛は高くて雇えない、という民間人の護衛が多い。
逆に、身元を確認するような、商人や貴族の臨時護衛は出来なかった。
異形と分かって雇う者など、誰もいない。
結果、飛び入りの仕事が多かった。
ゴロツキでも構わないというような、そんな条件の。
そうして、何人目かの雇主の護衛をしていた時だった。
ロッドに出会ったのは。