最初はうっとおしく思って。
だが、次第に一緒にいるのが楽しくなってきて。
それが、当たり前になった。
しかし、王宮騎士団が自分を連れ戻しに来た時、クロスはロッドを守る為、一度は城に戻った。
婚礼の儀式が執り行われ、クロスが諦めかけたその時、ロッドは自分を迎えに来てくれて、スフォードと闘って。
そうして、今は再びロッドと旅をしている。
ロッドがあの時の少年だったと気付いたのは、つい最近のお話。
「……教えてくれれば、よかったのに……」
「まだ言ってんの?悪かったって。……それに逢ったのはあの時のたった一度きり。憶えてるなんて思わなかったし」
そう言って苦笑するロッドに、クロスは少しムキになって言う。
「ロッドがあの時救われたように、私も救われてたの。……忘れる訳無いじゃない。自分一人だけ分かっててズルイ」
「だって俺の名前覚えてなかったじゃん」
「う。それは……」
クロスは言葉に詰まる。
……うう、痛い所を。
誰だって、名前を聞いて何の反応も示さなければ、忘れてると思うだろう。
「で、でも……!」
「でも?」
「〜〜っ!」
言い返したいのに、言葉が出てこない。
「……どうした?」
優しくそう言われれば、悔しいが、負けを認めざるをえない。
「……バカ」
呟くようにそう言って、でもむくれた表情はきっと可愛くないので、見せたくなくてロッドの胸に抱き付いて、顔を埋める。
「クロス。顔上げて?」
「……いじわる」
そう言いながらも顔を上げれば、ロッドは微笑むような笑顔だ。
「むくれてる顔も可愛いい」
ニコニコしながらそう言われると、物凄く恥ずかしくなる。
「か……可愛くないっ!……もう、見せたくなかったのに……」
照れ隠しの為視線を逸らして、怒ったように言う。
……こんな時に顔なんてまともに見れるわけない。
「……へぇ?クロスでも可愛いとか、そういうの、気にするんだ。へぇー」
「気にする!だって……ロッドの事……好き、だから……」
自分でも、顔が真っ赤になるのが分かった。
凄く、熱い。
……ロッド、何て思ったかな。
そんな事を考えていると、突然肩を強く掴まれた。
「本当?」
思わずロッドを見ると、その表情はとても真剣なもので。
何だか、怖いくらいの気迫を感じた。
「……うん」
それが何だか可笑しく思えて。
頷きながら、クスリと微笑う。
「……クロスって、そういう事あんまり言ってくれないからさ。……すげー嬉しい。いつもは俺が一方的に、だもんな」
ロッドは本当に嬉しそうで。
強く抱き締められたその腕の中で、クロスは幸せを感じる。
「クロス……好きだよ」
耳元で囁かれるその言葉。
「……私も」
そうして互いに見つめ合うと、二人は唇を重ねた。