あれは、一緒に旅をしていた父親が、病気で呆気なく死んだ時。
 心にぽっかりと穴が開いたようだった。
 どうすればいいか分からなくて。
 何をすればいいのか見つからなくて。
 真っ暗な闇の中で、途方に暮れていた。
 まるで、出口の無い迷路に足を踏み入れて、迷い込んでしまったような錯覚すら覚えていた。

 だけど。

 導いてくれる光を見つけた。
 突如として現れた、自分よりも年下の女の子の中に。
 その子は一生懸命に、未来への可能性を示してくれて。

 ――救われた気がした。

 光に見えた、その心の支えになってくれた女の子は今。
 自分の隣で笑っていてくれて。
「……結局、立ち直る為には“誰か”の存在が必要なのかもな……」

 人は、そんなに強くない。
 弱い自分に目を瞑り、遠ざける事で強いフリが出来るのは大人だけだ。
 だけど子供は。
 そうする術を知らない子供は、“誰か”の支えが無ければ、簡単に暗闇に足を掬われてしまう。
 苦しい時に、なんでもいい、ただほんの少し、“誰か”に、“何か”に、縋る事が出来たなら……。

「ロッド、どうかした……?」
 心配そうに覗き込んでくるクロスに、ロッドは今迄の思考を停止させる。
「別に?なんでもないよ」
 心配を掛けたくなくて、ロッドは微笑んでやる。

 ――バカだな、俺。

 そんな考えに囚われてしまうなんて。
 縋ったって何だっていい。
 大切なのは今。前を向いて歩く事、なんだから。
 そうして。
 アントスにもきっと、差し伸べてくれる手が、必要だと思うから。
「……早く目ぇ覚まさないかな。賞金で腹一杯飯食って、バカ騒ぎしてぇ!」
「もー。ロッドったら……」

 なぁアントス。
 目が覚めたら、一緒にバカ騒ぎしようぜ。
 この世界には、珍品をただ眺めているだけよりももっと楽しい事が、沢山あるんだから。

 ロッドはそう思って、知らず口の端を上げた。


 その日の酒場は、いつもよりも大騒ぎだった。