それは、ある街で宿を取った時の事だった。
大抵街では各自自由行動。
アントスも、よく独りで街を見て回る事が多くなった。
スフォードはあまりいい顔をしないが、結局はクロスとロッドに言い包められて終わる。
但しその場合、人通りの賑やかな大通りを歩く事と、フィンネル王家の徽章を見せない事を言い含められて。
「……そろそろ戻るかな」
そうして宿へと足を向けた時だった。
「あれ……今の、ロッド?」
視界の端に捉えたロッドは、大通りから一本脇に逸れた道を歩いていた。
遠くからでも分かる、蜂蜜色の髪。
「……ロッドを追い掛けるんだから、いいよな?」
そう自分に言い聞かせて、アントスは人通りの少ない脇道へと入る。
少しだけ、興味があった。
だが、途端に辺りに静寂が訪れて。
怖いと思った。
大通りとは違い、誰もいない場所。
急に恐怖に駆られ、懸命にロッドを探す。
そうして見つけた先。
そこにはロッドと――クロスがいた。
だが、アントスは声を掛ける事が出来なかった。
「……っ」
――二人は抱き合い、キスを交わしていた。
そうしてお互いに見つめ合い、幸せそうな笑みを交わして。
クロスはロッドの胸に頬を寄せ、ロッドはそんなクロスを、愛しそうに抱き締める――。
アントスは、無我夢中でその場を駆け出した。
何処をどう走ったのだろうか?いつの間にか宿に戻っていた。
「アントス様。お帰りなさいませ」
部屋のドアを開けると、彼の姿を認めたスフォードがそう声を掛けてきた。
「……スフォード……」
アントスは何かが切れたように、突然泣き出してしまう。
「アントス様!?如何なされましたか!?」
スフォードは訳が分からず、ただ狼狽するしかなかった。
大分落ち着いた所で、アントスは口を開く。
「……僕は、二人の邪魔をしているのか……?」
「と、言われますと?」
「クロスもロッドも、二人きりだと、僕が見た事の無いような、幸せそうな笑顔をする」
スフォードは、どう答えていいものか迷う。
「……僕は、二人に幸せになって欲しいと思う。だって、こんな僕に笑ってくれたんだ。決して偽りの笑顔じゃなく。だから……国に戻るよ。本当は二人と別れたくはないけれど……二人が、大好きだから」
弱々しく笑うアントスに、スフォードは柔らかな笑みを向けた。