「――で、どういう事か説明して下さい。スフォード」
 クロスは、状況の説明をスフォードに求める。
 驚いた事に、アントスの旅の供として同行していたのはスフォード唯一人。
 王子の旅の供が一人というのも異例だとは思うが、それが他国の王宮騎士団隊長、というのも異例だ。
「まずは、姫が姿を消された直後からお話しましょうか」
 スフォードは一度軽く息を吐くと、これまでの経緯を話し始めた。


 ロッドが起こした爆弾騒ぎのどさくさに紛れ、クロスを連れ出し、スフォードとの勝負を経て、二人が街を抜け出した頃。
 爆弾と騒がれた物はただの発炎筒だと分かり、花嫁が姿をくらました事で、リアス国は窮地に立たされた。
 それもその筈、神聖な、しかも重大な意味を持つ婚礼の儀を何者かに滅茶苦茶にされた挙句、花嫁失踪など、本来あってはならない事だ。
 国交を結ぶどころか、宣戦布告をされてもおかしくない状況。
 もし戦争にでもなれば、フィンネル国より小国のリアス国がどうなるかは目に見えている。


 話を聞いて、クロスとロッドは大変な事をしでかしたと認識する。
「それで、国は!?どうなったのです!?」
 あの出来事から数ヶ月。リアス国に戦争の事実は聞かない。
 だが各地を転々としている身としては、耳に入らなくてもおかしくは無い。
「クロス、落ち着け。情報の早いギルドでも、そういった話は聞かない」
 ロッドは宥めるようにクロスの髪を撫でる。
「……ごめんなさい……それでスフォード、国は……」
「平気です。どうぞご安心下さい」
 その言葉に、クロスは一先ず安堵の息を吐く。
「……アントス様のお蔭、とでも言うべきでしょうか」
 スフォードは、チラッとアントスを見てから再び口を開く。
 ちなみに当のアントスは、今はロッドの剣に興味を示し、独りで様々な角度から眺めている。
「姫の失踪で、フィンネル国国王は大層お怒りになっていらしたのですが……アントス様が突然姫を探しに行くと言い出されて」
 その言葉が何故戦争回避に繋がるのだろうか?
 二人は首を傾げた。
「アントス様が珍品コレクターなのは知っておられますね?」
 有名な話だ。二人は頷く。
「今迄アントス様は珍品にしか興味が無く、日がな一日部屋で珍品を愛でている、という生活だったそうです」
 つまり金持ちの道楽だ。
「当然王族としての執務も放棄し、それどころか部屋から一歩も出ない、という事も当たり前だったそうです」
 俗に言う、引き篭もり、というやつだ。
 外に出たかったクロスとは、正反対の生活。
 一体、何が彼をそうさせたというのだろう?