「原因は母親の死。それも、目の前で殺されたとの事です」
「「!」」
「アントス様は第二妃の子で、第一王位継承者です」
「……つまり、暗殺だな?」
ロッドの言葉にスフォードは頷く。
フィンネル国は、リアス国とは違い一夫多妻制だ。
だから当然、正妻である第一妃以外にも妻はいる。
「第一妃の差し金で、アントス様を狙ったその身代わりに。その後第一妃は捕らえられ、自害。命の危険は無くなったものの、その時のショックで……」
「……」
考えてみれば、クロスはアントスの事を何も知らない。
裏に、そんな事情があったなんて……。
「……そのアントス様が、ご自分から外に出る事を選択されたんです。フィンネル国王は喜んでお怒りを静めて下さったばかりか、逆に我が国との国交も結んで下さいましたよ」
成程。結果的にはリアス国にとっても万々歳だ。
「……それで?何でアンタがお供してるわけ」
少しだけ嫌そうにロッドが言う。
ここだけの話、ロッドはスフォードが苦手だった。
「腕が立って、姫の事を一番よく知る人物、だからです」
前回同様、と付け足してスフォードは目を細めてロッドを見る。
どうやらスフォードもロッドを良くは思っていないらしい。
一応旅の名目上、身分を隠す為に供は思い切ってスフォードだけ、となったとの事だ。
いや、思い切り過ぎだろ!とロッドは頭の中でだけ突っ込んでおく。
すると、今迄剣に夢中になっていたアントスがロッドに話し掛けて来た。
「お前、ロッドといったか?柄が赤い剣とは、珍しい。僕に譲ってくれ」
「……はぁ!?譲る訳ねぇだろ。いい加減返せ」
突然突拍子もない事を言い出されて、ロッドは慌てて剣を奪い返す。
「ならいくらだ?言い値で買おう」
その言葉にロッドはカチンとくる。
こいつ、人の事馬鹿にしてんのか!?
こいつの境遇に、親を失った悲しみを一瞬でも重ねて損した。
「いくら積まれてもぜってー売らねぇ!」
だが、アントスは尚も怪訝そうな顔で言う。
「どうしてだ?柄の色はともかく、同じような大剣ならどこにでも売っているだろう?新しく買えばいいじゃないか」
――こいつ本当に馬鹿か?
「剣士にとって剣は命と同じくらい大切なものだ!それにこれは……親父の形見でもあるんだ。その辺の剣と一緒にするんじゃねぇ!」
殴りたいのは山々だったが、これでも一応一国の王子。それに先程からスフォードが臨戦態勢に入っている。
殴りたい衝動を必死に抑えて、ロッドはアントスを激しく睨み付けた。
するとアントスは目に見えて動揺し、大人しく引き下がった。
但し、ロッドの睨みに怯んだ訳ではなかった。
「そう、か……それはすまない事をした……」
「あ、いや……こっちこそ、つい怒鳴って悪かった」
アントスの態度の理由にすぐに思い当たり、ロッドは素直に謝る。
“形見”だからだ。
だからアントスは大人しく引き下がったのだ。
ロッドは少しアントスを見直す。
どうやらただの珍品コレクターではないらしい。
勿論良い意味で。
タチの悪い奴は、それが例え形見だろうと、思い出の品だろうと、お構い無しに手に入れようとする。
ロッドがそう考えていると、アントスはいつの間にか今度はクロスに話し掛けていた。
「ねぇロザリオ。君の髪と眼、ちゃんと僕に見せてくれないか?」
その様子にロッドはムッとする。
……やっぱ気に喰わねぇ!