取り敢えず、今日の所は近くの街で休む事になって、宿を取る時だった。
「二人部屋……じゃなかった。お前達どうするんだよ」
いつものクセで二人部屋を取ろうとして、だがスフォードとアントスの存在に思い至って振り返る。
と、スフォードはまたしても怒りを露にして剣の柄に手を掛けていた。
(今度は何だよ……)
そう思いながら、ロッドは視線を逸らして溜息を吐く。
実は街に着くまでにも、こういう事が何度かあった。
例えば水。
「あ……悪いクロス。水無くなったから少し頂戴」
「あ、うん。はい」
「サンキュー」
勿論コップなんてないから、渡された水筒に直接口をつけて飲む。
これはいつもの事だし、勿論逆にクロスがやる事だってある。
なのに。
「貴様、今何をした」
「は?」
「姫に対していい度胸だな。今すぐその首、切り落としてやろうか……?」
「スフォード。やめなさい」
「……仰せのままに」
一連のやり取りに、理由が思い至らなかったロッドはクロスに聞く。
「……今の何」
「多分、水筒に直接口をつけて飲んだからじゃないかな」
「……マジで?」
他には木の実。
手の平大の少し甘酸っぱいもので、クロスの大好きな木の実。
それを見つけて、クロスに取ってあげる。
「はい、クロス。丁度食べ頃みたいだ」
「あ、ありが……」
「姫に何を食べさせるつもりだ!?」
そう言い、スフォードはクロスの手に乗った木の実をすぐさま払い落とす。
「あ……」
少し哀しげな眼でクロスは地面に落ちた木の実を見つめる。
その表情も可愛い。
その後で、今度は少し潤んだ眼で見上げられる。
……そこでその表情は反則だろう。男として少々グッと来るものがある。
それはまぁ取り敢えず置いといて。
口の形だけで“後で”と言い、何個か取って小袋に入れたら、クロスは物凄く嬉しそうな顔で笑ったのでそれでよしとしておこう。
とにかくそんな感じだったので、ロッドはもうウンザリしていた。
(そういえば、妹みたいに想ってたって言ってたな……つまりシスコン?)
そんな事を思っていると、スフォードが口を開く。
「姫と同室……だと?貴様……」
あー分かった。絶対に何か勘違いしてやがる。
てか、結局姫って言ってるし。