半ば呆れ気味にそう思って口を開きかける。
すると、クロスが先に言った。
「睡眠を取る目的で同室だと、何か不都合でも?」
「睡眠だけ……ですか?」
「?宿に泊まる目的はそれでしょう?」
……意気地なしとか言うなよ?こっちにだって色々と都合があるんだから。
「……失礼致しました」
スフォードは、バツの悪そうな顔で引き下がり、少しだけ冷やかに微笑った気がした。
その事にロッドはムッとして、わざと言う。
「何想像したんだよ?」
だがスフォードは涼しい顔で“何も”と答えた。
やっぱこいつ嫌いだ。
「で?宿代節約の為に俺達はいつも通りにしたいんだけど。お前等二人は宿代別に払うって事でいいのか?」
というか、本当は今日も野宿の予定だったんだが。
「僕もクロスと一緒の部屋がいい!」
そう言い出したのはアントスだ。
「……では四人部屋で。宿代はこちらが持ちましょう」
そうして四人部屋泊まる事になり、早速部屋に通された。
部屋に入るなり、アントスは何とも言えないような表情で絶句していた。
「……クロスはいつも、こんな所で寝泊りを……?」
「いいえ?普段は野宿の方が多いですが」
否定の言葉にアントスは一瞬安堵するが、続く言葉に怪訝そうな顔をし、スフォードはスフォードで本日何度目か分からない怒りをロッドに向けていた。
「スフォード。野宿って何?」
「野営の事です。簡単に言えば宿には泊まらず、屋外で夜を過ごす事です」
「外で寝るの!?」
「はい。……ロッド。私はそんな事をさせる為に姫を貴様に託した訳ではないのだが……?」
怒りを通り越して、最早殺気に満ちている。
それでもちゃっかり託した云々の所は小声だ。
そりゃそーだよな。結婚式での花嫁の失踪は半分近く自分のせいだから。
その相手にバラす訳にもいかないだろうし。
心の中でだけ、ロッドはそう毒づく。
まさかこんな室内で剣を振り回すなんて馬鹿な真似をスフォードがするとも思えないし、剣には手を掛けていなかったので、ロッドは少しだけ余裕だ。
この場合、考えられるのは“表に出ろ”。
だが、スフォードがそう言う前に、クロスの一言で場の空気が変わった。
「私、野宿嫌いじゃありませんよ?」
「え、何で?」
「だって、星が凄く綺麗で。……毛布に包まって、それを眺めながら眠るのも一興です」
クロスはそう言いながら、一度ロッドの方チラッと見て柔らかく微笑む。
その意味に気付いて、ロッドも自然と口が綻んだ。
二人が野宿する時は、いつも手頃な木の幹にもたれてお互い寄り添い、一緒の毛布に包まって眠る。
つまり要約すると。
『星を見ながらロッドと寄り添って一緒に眠るのが好き』
という事で。
「俺も好き。やっぱ旅って言ったら野宿だろ」
但しその場合、剣は抱えて眠らないといざという時に素早く動けないが。