翌朝になって、新しい情報を仕入れにギルドに行っていたロッドが、興奮して戻ってきた。
「クロス、大変だ!近くの街に大物が現れたらしい!」
「!本当か?」
「あぁ。大物も大物、S級賞金首。五千万の大物だ」
普通、ギルドで設定される賞金首のランクはA〜F。
だが稀に、それよりも上のランクSをつけられる場合がある。
S級の賞金額はA級の十倍以上。それと同時に、難易度も格段にUPする。
「名前はビラスト。女子供を好んで殺す、凶悪な殺人犯。こいつを捕らえようとした賞金稼ぎが何人も犠牲になってる。S級認定はその為だ」
「近くの街にいるんだな?」
仕事の話になると、クロスはいつも男の口調になる。この方が気が引き締まるらしい。
「じゃあ決まりだな」
すると、スフォードが話に割って入った。
「お待ち下さい。行かれるおつもりですか?」
「勿論だ。これ以上犠牲を増やす訳にはいかないだろう」
「ですが!」
尚もクロスを引き止めようとするスフォードに、ロッドが口を開く。
「俺はアンタも頭数に入れてるんだけど?」
「……何?」
その言葉に、スフォードは睨み付けるようにロッドを見る。
「郷に入っては郷に従え。付いてくる以上俺達のやり方に付き合ってもらう。……俺はアンタがいるからこの話を持ってきたんだ。クロスと二人だけなら、この話は蹴ってるさ」
すると、クロスが憤慨した。
「どういう意味だ、ロッド。私では頼りないと、そう言いたいのか……!?」
「そうじゃない」
ロッドは一度目を伏せ、真っ直ぐにクロスを見る。
「S級は危険すぎるんだ。現に腕に覚えのある奴等が何人も返り討ちに遭ってる。俺とクロスとスフォード、三人でもまだ確実に捕らえられる保証はない」
「……そんなに?」
真剣な表情のロッドに、クロスは息を呑む。
「あぁ。二人だけだと、どちらかが命を落としてもおかしくない。だけど三人なら、相手を撹乱させる事が出来る」
「……成程な。分かった。それだけ覚悟が必要な相手なんだな」
クロスが納得してくれた事に頷いて、ロッドは、それに、と付け足す。
「俺はクロスが大切だから、守れないのは嫌なんだ。その点スフォードなら、それこそ命懸けでクロスを守りそうだし。……“共に戦う”んだろ?」
「ロッド……」
それは、いつかした約束。
『……お前と共に戦いたい。お互い安心して背中を預けられるように。一方的に守ってもらうなんて嫌だ』
あの時から、二人の立場は対等だ。
二人はそのまま見つめ合って。
……本来ならそこでキスの一つでもする所なのだが。
「どうしてもやると言うのですね」
スフォードの目もあるので出来なかった。
「……何の話……?」
丁度そこに、まだ眠たそうに目を擦るアントスが起きてきた。
「あ、アントスの存在忘れてた」
本当に今思い出したというように、ロッドがボソッと呟く。
「アントス。一つ聞いてもいいですか?」
「クロス……何……?」
「剣術の腕前を聞きたいのですが」
「剣……僕、剣なんて持ってない……」
つまり。
「アントスは宿で待機だな」
戦力外。