どうしよう。
 このまま逃げたい。
 それとも、友達の代わりに来ました、とか?
 今ならまだ、宗方君は私の事を知らない。
 このまま帰ってアドレスを変えてしまえば、彼とは何の繋がりもなくなる。
 何の、繋がりも……。

 そう思ったら、何故だか身震いがした。
 でも彼とは、宗方君とは関わりたくない。
 それが今の璃琉羽の、正直な気持ちだった。

 そうと決まれば長居は無用。
 いつこちらに気付くとも限ら……。
「……え」
 恐らくは璃琉羽が色々と考えていた時だろう。宗方はこちらに気付いたらしく、近付いて来ていた。

 璃琉羽は思わず走り出していた。

 顔、見られてないよね?
 気付かれてないよね?
 多分平気だ。俯いていたし、殆ど後ろ向いていたし、さっきの一瞬じゃ遠くて顔なんてよく見えないだろうし。
 何より話した事はおろか、同じクラスになった事すらないんだから!

 分かるワケない。私が誰かなんて。

「琉璃!」
 走って追ってくる宗方が、璃琉羽のメル友時の名を呼ぶ。
 だが璃琉羽は止まる事無く、電車の定期を鞄から取り出す。

 電車に乗ってしまえばいいんだ。
 この駅は比較的電車の乗り入れが頻繁だから大丈夫。
 きっと逃げ切れる。

 そう思いながら、丁度ホームに来た電車に滑り込んだ時。

「姫中!」

「!?」
 だが、そこでドアは閉まり、璃琉羽は思わずドアにもたれ掛かる。

 信じられなかった。
「何、で……私の事、気付いて……?」

 どうしよう。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう!

 結局、一番頼りになりそうな朱夏に電話をし、事の次第を話す。
「朱夏ちゃん、どうしたらいい?」
 だが、電話口の朱夏は驚いた様子を見せなかった。
『……そっか。会っちゃったのか……』
「……朱夏ちゃん?何か、知ってるの……?」
『ごめん。私の口からは言えない』
 そうして電話は切れてしまった。
「何で?どうして、朱夏ちゃん……」

 先程から、“どうしよう”と“どうして”しか頭に浮かんでこない。
 一体何がどうなっているんだろう?

 暫く電車に揺られながら考えていると、メールが届いた。

 送り主は――蒼。

『会って、きちんと説明したい。さっきの駅で待ってる』

 ……本当は物凄く嫌だけど。
 逃げてちゃいけないんだと思う。
 会って、話をしなくちゃ。