それから数日が経ったある日。
「璃琉羽!あんた、携帯の電源入ってるの!?」
 璃琉羽は母親に怒られた。
「もー。帰りに買ってきて欲しい物があったのに」
「……ごめんなさい」

 実はあの日以来、璃琉羽は携帯の電源を入れていない。

 怖かった。携帯が鳴るのが。

 だが、仕方なく電源を入れるとすぐに、大量のメールが届く。
 その殆どが蒼……つまり宗方からだった。

 ここ数日、校内で何度か彼を見掛けた。
 その度に、辛そうな、悲しそうな表情をされて。
 被害者はこっちなのに、と思った。

 メールの宛名を見ていくと、蒼の名前に紛れて朱夏の名前もあった。
 一度に消去しようと内容も見ずにチェックしていくと、一番最近のものに見知らぬアドレスがあった。

 誰かアドレスを変えたのだろうか?それともまた、メル友の誘いだろうか。
 もしそうなら、即消去するつもりで開いてみる。

「……え?」

『辛い思いをさせて悪かった。
 本当は直接謝りたかったけど……ごめん。
 俺の身勝手な想いで、騙すような真似をして、君を傷付けた。
 君と絹川の仲を裂く結果になって、本当に後悔すらしている。
 元のアドレスのままじゃ、メールを見てくれないと思って、不意打ちみたいになったのは許して欲しい。
 金輪際メールはしないと誓う。
 ただ、謝りたかったんだ。本当にごめん。 宗方』

 それを見て、急速に心が冷えていくのを感じた。
 嫌だ、と思った。
 慌てて他のメールも開ける。
 そこには、直接謝りたいという旨と、今回の事は全て、無理にアドレスを聞き出した自分が悪いから、どうか絹川――つまり、朱夏を責めないでやって欲しい、という内容ばかりだった。

 璃琉羽は朱夏からのメールも開いてみる。
 朱夏からは謝罪と、ちゃんと宗方自身を見て判断して欲しかったから、という事が綴られていた。

「本当の、宗方君……」

 私は一体、彼の何を見ていた?
 私は一体、彼の何を知っている?

「バスケ部のレギュラーで、兄弟みたいに育った一つ下の後輩がいて……喧嘩で相手を全員病院送りに……ううん、これは噂だから本当とは限らない……ひとりっ子で、趣味は……」
 璃琉羽は蒼とのメールのやり取りで知りえた事を一つずつ思い出していく。

 そういえば。
 蒼が宗方だと分かった時、智が言っていた事がある。

『でも何だか信じられないね。メールの文面見ると、聞いていたのとは正反対の性格だもん』

「そう、だったんだ……」