ラティスに避けるような態度を取られているのを、神無は気にしていた。
 それは魔物と戦っている時も頭をよぎり、次第に集中できなくなっていた。


 そんなある日。
(っしまった――!)
 集中力を欠いてバランスを崩した所に、魔物の鋭い爪が振り下ろされる。
「っ!」
 しかしそれは、直前にラティスの鞭によって弾かれた。
「ラティス……」
「バカ!何やってんだ、集中しろ!」
「……うん、ごめん!」
 気を取り直して剣を構え直し、魔物を一閃する。
 そうしてその戦いの直後、その場で一旦休憩を取る事になった。


「神無、話がある」
「うん……」
 ラティスは、怒っていた。

 フォリシスとリムから少し離れた所で、ラティスは話し出す。
「どうしたんだ?最近注意力散漫じゃないか?」
「それは……その……」

 言えない。
 言える訳がない。

「ちゃんと話せ。体調でも悪いのか?」
 神無は首を横に振る。
「じゃあ、慣れない山歩きで疲れが溜まってるとか、旅が嫌になったとか」
 またも首を横に振る。
「怪我したとかは?」
 やはり首を横に振る。
「じゃあ何なんだよ!」
 ラティスは怒鳴る。

 嫌だ。

「……ラティス……最近、私の事避けてる……」

 こんなの嫌だ。

「私の事、嫌いなんでしょ?……っ戦いの時はちゃんとするから……私の事は放っておいてよ!」

 嫌だ。
 こんな事しか言えない自分。

「……寂しかった?」
「な、違……っ!」
 本当は、避けられて凄く寂しかった。
 だけど、図星を指されて神無は思わず否定し、目を逸らす。

 正直、困惑した。
 認めてしまうのは、何だか悔しいような気がして。

「……」
 お互い沈黙が流れる。
 先に口を開いたのはラティスだ。
「……本当言うと、神無の事、少し避けてた」
「……っ!」
「別に嫌いだからじゃないぞ?……ほら、この間のアレ。毛虫の。何か変に意識しちゃって、接し方とか。……他の二人と話してたら、その内いい解決方法が 見つかるかなーって」
「そう……だったんだ」
 神無は内心、ホッとした。
 避けてたと言われて胸が苦しくなったが、嫌いじゃないと言われて嬉しくなった。
「……でもよくよく考えたら、あの二人と神無って性格全然違うのに、いい解決方法が見つかる訳ないんだよなーっ!」
 茶化すようにそう言うラティスに、神無は少しムッとする。
「何それひどーい!そりゃあ、確かにあの二人は大人しめの性格だけどね……でもそれってまるで私が物凄い騒がしい性格みたいじゃない!」
 そう抗議すると、ラティスが宥めてくる。
「まぁまぁ……元気出たみたいだな。いつもの神無だ」
 そう言ってニッと笑ったラティスに、神無はふと気付く。
「あ……」
 意地悪だが、これがラティスの優しさ。
「戻ろうか」
「……うん」

 何だか心の奥が、凄く暖かい気がした――。