「あの時はまだ、恋って自覚なかったなぁ」
目を閉じて過去を思い出す神無は、そう呟いた。
「……本当はさ、あの時“俺の事好きなの?”って聞きたかったんだ。……でもやめた」
「どうして?」
「何か混乱してるっぽかったから。……もし言ってたら、今こうして一緒にいられなかったかもな」
そう言って笑ったラティスを見て、神無も微笑む。
「でも色々あったよねぇ……あ、ラティスが今の気持ち自覚したのって、やっぱりその辺り?」
聞かれてラティスは少し考える。
「うーん……ハッキリと自覚したのはもう少し後だな。ほら、ヒューレ山脈越えた後、雪積もった中歩いててさ。神無がバランス崩して俺を押し倒した時」
「押し倒してないっ!」
その時の事を思い出して、神無は真っ赤になって否定する。
「だってアレは、ラティスの方に倒れ込んだだけで……」
「つまり押し倒したんじゃん」
「〜〜っ意地悪!」
「だって、真っ赤に照れてる神無、スゲー可愛いから……つい苛めたくなる」
「――っ!」
神無は言葉が出てこない。
この人には勝てそうもない。
それに、旅の間中ラティスはずっと辛そうな表情をしていた。
だから今、こうして笑顔を見られるのは何より嬉しい。
嬉しいのだが。
何だかこっちの身が持たない。
言動に振り回されてばかりだ。
すぐにドキドキしてしまう。
「話、戻していい?」
「あ、うん。どうぞ」
「……あの時魔物に襲われて。結構危なかっただろ?それで“失わなくて本当に良かった”って思って……自覚したのはその時。神無は?」
「私?うーん、どうだろ。気付いたらって感じなんだけどなぁ……」
抱き締められたり、いつだったか倒れた時、傍にいてくれた事とかが嬉しかったのは覚えている。
ドキドキしたし、少し恥ずかしくてくすぐったいような気持ちにもなった。
思い返せば、相手を意識し始めた時が、恋の始まりなのだろう。
そうして、それを恋だとハッキリ自覚したのは。
「……あ、あの時だ。ほら、マニュファダスでマリノスに告白された後」
そう言われてラティスは思い出す。
「……あぁ、あの時な」
嫌な思い出だ。
今思い出しても腹が立つ。
「確かあの時は、雷の珠を手に入れた後だったよな」
雷の珠を手に入れる為、鉱山に入る許可をくれたベリノ親方にお礼を言いに行った時、マリノスの両親の話――といっても育ての親だが――に、
外に飛び出したマリノスを追って、神無が探しに行った。
ラティスはマリノスが神無を想っている事を知っていた為、一度は止めた。
だが結局行かせてしまった。
そうしてマリノスは神無に告白をし、無理にキスをしようとさえした。
間一髪、阻止はしたが。