普段、家事はフォリシスがやっている。
「……これ、リムさんが?」
「ええ、お口に合うとよろしいのですが……」
 その言葉にフォリシスは、味の方に口を合わせます、と心の中で思う。

 好きな人の手料理の朝食が食べられるなんて、夢みたいだ。
 まるで新婚家庭のような気分――。

「早よ座らんか。折角の朝食が冷めてしまうわ」
 ――お師しょー様がいなければ、の話だが。

 何はともあれ、感激だった。


「〜〜っ凄く美味しいです、リムさんっ!」
 フォリシスのその様子は、振り千切れんばかりに尻尾を振る犬そのものだ。
 聡い人なら、フォリシスがリムに好意を持っているのはバレバレだろう。
 だが素で鈍いのか、気付いていて流しているのか、リムは特には何の反応も見せず。
「気に入って貰えて良かったです」
 と、微笑んだ。

 食事の最中にふと思い出した事を、フォリシスは口にする。
「……そういえば、どうしてリムさんがココに?」
 するとリムは少し不思議そうな顔をする。
「どうしてって……フォリシスさんがお手紙を下さったんでしょう?“孤島の家ももうすっかり元通りに修復が終わったので、良かったら一度来て下さい”と。 ですから事前にお手紙でお知らせして、こうして来たのですけれど……」
 それを聞いてフォリシスは大賢者を睨む。
「お師しょー様!人の手紙勝手に読んだ上に、隠さないで下さいよ!」
 だが大賢者は飄々とした態度で言う。
「手紙ならちゃんとお前の部屋にあるぞ?『基礎修練魔術書』の最後の頁に挟んであるからの」
「……っそれ!お師しょー様が昨日僕に渡したばかりの本じゃないですか……っ!」

 昨日、といっても夜遅くだ。とても読む時間はない。
 完全に反応を見て楽しんでいる状況だ。

「……大賢者様も人が悪いですわ。ですから今朝も、フォリシスさんを起こすよう、私に頼んだのですね?」
「頼っ……!お師しょー様、客人であるリムさんに僕を起こさせたり、朝食を作るよう頼んだんですか!?」
 嬉しくて深くは考えなかったが、つまりはそういう事なのだろう。
「たまには若い女性の手作り料理も食べたくなるわ」
 開き直ってそう言う大賢者に、フォリシスは溜息を吐いてリムに謝る。
「本当にすみません。色々とご迷惑をお掛けして……」
「いいえ。そんなに気になさらないで下さい。ね?」
 そう微笑まれ、フォリシスは顔を真っ赤にする。

 年上の女性に対してこんな事を思うのもおかしいかもしれないが、可愛い。
 思わずドキドキしてしまう。
 この微笑みが今、自分だけに向けられているのが、嬉しい。